温めたペットボトルで「お灸」ができる!?手間いらずのセルフケアで体を楽に
冷えや肩こりを緩和できるといわれるお灸(きゅう)や鍼(はり)。「台座灸」と呼ばれるタイプのセルフお灸も人気ですが、「火を使うお灸は怖い」と、使うのをためらう人も少なくないかもしれません。また、そのようなアイテムを使ったとしても、自分でツボを狙うのはなかなか難しいものです。
なんとなく体がすっきりしない、ちょっとした不調はセルフケアで何とかしたい...。そんな人におすすめしたいのが、火を使わず簡単にできる「ペットボトル温灸」と「爪楊枝鍼」。
今回は、この2つを考案した臨床家・鍼灸師の若林理砂先生に、ペットボトル温灸と爪楊枝鍼の基本的なやり方を教えていただきました。
ペットボトルにお湯を入れるだけの簡易お灸
――初めに、先生の専門である「鍼灸」について、簡単に教えてください。
鍼灸とは、お灸や鍼を施すことで、体のバランスを整えて機能回復を図る東洋医学の治療法です。
お灸とは、ヨモギの葉から作られた「モグサ」を燃焼させて行う温熱療法のこと。ツボ付近の皮下温度を上昇させることによって刺激し、血流などのめぐりを整えて水分代謝を促します。
一方の鍼は、全身に点在するツボ(経穴)を直径0.12~0.18mm程度の細い鍼で刺激する療法です。鍼の刺激によって筋肉をほぐしたり、血行や代謝を促したりすることで、気になる症状を改善していきます。
――お灸と鍼はどのように使い分けるのでしょうか?
お灸はおもに「補法(ほほう)」といって、体が冷えていたり、皮膚に張りがなかったりするなど、足りない気血を補うための治療法です。疲れやすさや動悸・息切れ、めまいといった更年期の症状の改善にもよく使われますね。
一方、鍼はおもに「瀉法(しゃほう)」といって、余分な気血を追い出したり、詰まっているものを取り除いたりする治療法。高い熱が出ていたり、腫れていたり、目が充血したりしているときは、鍼治療を行います。更年期世代の悩みのひとつである便秘や胃の不快感の改善にも、鍼が使われます。
――この「鍼灸」を簡易的にできるのが、先生が考案されたペットボトル温灸と爪楊枝鍼なんですね。まずは、ペットボトル温灸について教えてください。
では、ペットボトル温灸の作り方からご紹介しますね。私たち鍼灸師が臨床で使うお灸は、燃焼させたモグサそのものは高温ですが、お灸をすえた場所の皮下組織の温度は50℃程度なんです。ペットボトル温灸でこれを再現するには、容器内のお湯を60〜80℃にする必要があります。
とはいえ、いちいち温度を計らなくても大丈夫。ホット専用のペットボトルに3分の1ほど水を入れた後、容量いっぱいまで沸騰したお湯を入れればその温度帯になります。ホット専用のペットボトルは、耐熱温度が約80℃。それを超えると容器が破損してしまうため、必ず水を入れてからお湯を入れてください。
――ホット専用のペットボトルなら、どんな物でもいいのでしょうか?
どんな物でも構いません。市販品で手に入りやすいのは、ホット専用の耐熱ボトルと、電子レンジ対応ボトルの2種類ですね。電子レンジ対応ボトルの場合は、水を入れて沸騰する直前まで電子レンジで温めれば、60〜80℃の温度帯になります。
また、自動販売機で温かい飲み物を買おうとすると、缶ボトルしか売っていないことがありますよね。「外出中に寒気がしてきた」「足がむくんで痛い」というときは、このような缶ボトルを使ってケアしてもOKです。
ペットボトルをあてたり離したりすることで血流を促す
――ペットボトル温灸は、どのように使えばいいのでしょうか?
お灸は「温める」イメージが強いですが、実は皮下組織の温度を上げたり下げたりすることで、効果が出る治療法なんです。ペットボトル温灸を、ツボ周辺に3秒から5秒あてて、パッと離すことを繰り返すと、この状態を再現できます。
ただし、缶ボトルは熱伝導率が高いため、同じ温度のお湯を入れてもペットボトルより高温になります。そのため、缶ボトルを使うときは、タン、タン、タンと叩くようにしてツボ周辺を刺激してください。
――ペットボトルをあてて離すことを、何回繰り返せばいいのでしょうか?
きっちり回数を数えるのではなく、体に熱刺激による感覚が現れたら終わりと考えてください。うまくお灸をすえられたときは、ツボ周辺に熱が染み込むような感覚が生じます。感覚が鋭いタイプの人は、ツボから少し離れたところに向かってじわっと温かさが流れるように感じると思います。自分の体に耳を傾けながら、あてて離すことを繰り返してくださいね。
――習慣化するなら、1日のうちいつ行うのがベストですか?
先ほども説明したとおり、お灸は足りない気血を補うための治療法。簡単にいえば、元気を回復させるためのケアですね。なので、習慣化するなら夜寝る前に行うのがベストです。
それ以外の時間も、寒気を感じたときや冷えがつらいときなどは、応急処置的に行っても構いません。ただし、満腹のときは気持ちが悪くなる可能性があるため、避けたほうがいいですね。
爪楊枝鍼でツボ周辺を広く刺激する
――続いて、爪楊枝鍼の作り方を教えてください。
初めは、直径1cm程度の束を作り、先端をそろえてから輪ゴムでとめてください。慣れてきて、ツボの位置がある程度わかるようになったら、本数を減らして細くしていきます。
鍼灸師以外の方がピンポイントでツボを狙うのは難しいので、「爪楊枝鍼をあてた範囲内にツボがあればOK」と考えましょう。
――どのくらいの力で刺激すればいいですか?
私たち鍼灸師が治療を行う際は、グリグリ押し込むのではなく、軽く押さえるようにしてツボを刺激します。爪楊枝鍼でセルフケアを行うときも同様に、軽く圧をかけて離すことを繰り返すといいでしょう。
――ペットボトル温灸の場合は「体に感覚が現れたら終わり」と教えていただきましたが、爪楊枝鍼も同じでしょうか?
そうですね。うまくツボを刺激できると、爪楊枝鍼をあてた所だけチクチクするのではなく、皮膚の下にツーッと何かが通っていくような感覚が生じると思います。あるいは、血流が変化して、皮膚が薄いピンク色になってきます。東洋医学では、この状態を「気が至る」「響き」などと呼びますね。
――爪楊枝鍼は、どのようなタイミングで行えばいいですか?
特に時間帯にこだわらず、気になったときに行ってください。日中、肩こりやむくみを感じたときに、爪楊枝鍼でツボを刺激すると、気になっていた箇所がスーッと軽くなることがありますよ。
――マッサージなどは、1日に何度もやらないほうがいいと聞きますが、鍼も同じですか?
そうですね。鍼をやりすぎると「瞑眩(めんげん)」といって、めまいのような症状が出ることがあります。これはお灸も同じで、やりすぎると「灸あたり」といって、お風呂でのぼせたときのような症状が出ることも。どちらも、1日1〜2回を目安にするといいですね。
手間がかからないから長くコツコツ続けられる
――ペットボトル温灸や爪楊枝鍼は、手間がかからず、長く続けられる点がいいですね。
灸という字は「久しい火」と書きますが、お灸は長くコツコツ続けることで効果が得られるといわれています。準備が面倒だと毎日続けるのは難しいので、そういった点でも、ペットボトル温灸や爪楊枝鍼はセルフケアに適していると思いますね。
ペットボトル温灸は元々、子供が体調を崩したときに、お灸をしたいと思って考案したものなんです。子供は好奇心からモグサにさわろうとするので、お灸をすえるのが難しいんですね。また、皮膚が薄いので、モグサだと刺激が強すぎてしまいます。
ペットボトル温灸なら温度を調整して刺激を緩和できますし、火を使わないので、お子さんのケアに使いたい方はもちろん、高齢の方やぜんそくを持っている方も安心して使えます。外出先や旅行中でも、耐熱ボトルや先端が尖っている物が手に入れば、簡単にセルフケアができますよ。
次回は、ペットボトル温灸を使った具体的なケアについて教えていただきます!
お話を伺ったのは...
若林理砂(わかばやし・りさ)さん
臨床家・鍼灸師。高校卒業後に鍼灸免許を取得。2004年に東京・目黒にアシル治療室を開院。2019年には「養生が1ヵ所で全部賄える場所」を目指して東洋医学や武術を学ぶStudio Libraを治療室に併設し、東京都品川区に移転オープン。現在、新規患者の受付けができないほどの人気治療室となっている。「絶対に死ぬ私たちがこれだけは知っておきたい健康の話」(ミシマ社)、「安心のペットボトル温灸」(夜間飛行)、「決定版 からだの教養12ヵ月 食とからだの養生訓」(晶文社)など、著書多数。
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