気持ちの浮き沈みはあって当たり前。更年期の心の揺れに対処する方法

女性の更年期は、個人差はあるものの、女性ホルモン(エストロゲン)の減少によって心身にさまざまな変化が生じ、気持ちが揺れやすくなる時期です。不調のないすこやかな体、肌のツヤ、活き活きと仕事や生活に向かう意欲など、みずからの意思に反して失われていくものを数えて、悲観的な気持ちになることもあるでしょう。

しかし、更年期に心が揺らぐことは、決して悪いことではありません。メンタルケア・コンサルタントの大美賀直子(おおみか なおこ)さんは、「傷付き、絶望し、揺れ惑いながら生きるこの10年は、その先の人生の流れを変える10年」だと話します。
「更年期を抜けた後」を幸せに生きるために、更年期の心とどう向き合うべきか、大美賀さんに聞きました。

更年期の心の揺れには「共感」がキーワード

――更年期になって、気持ちの浮き沈みが激しくなったと感じる女性は多いようです。なぜ、そうした変化が起きるのでしょう。

女性ホルモン(エストロゲン)の減少に伴って体の中で起こる変化のほか、役割の変化が更年期の女性の心に大きく影響します。その一つに、「子供を育てる母」や「現場でバリバリ働く女性」といった役割からの卒業があります。

更年期の女性の中には、思春期から青年期に差し掛かり、次第に親の手を離れて自立していくお子さんを持つ人が多くいます。

子供が幼い頃には、母として子供を守ることこそ自分の役割であり、生きがいだと受け止めている人が多いのですが、子供が思春期から青年期に差し掛かるとその必要性も薄れ、エネルギーを傾ける対象がなくなって、心にぽっかり穴が空いたように感じる人が多くなるものです。

仕事においても同様に、更年期に差し掛かる頃になると現場での第一線の仕事を退き、管理的な立場や後方支援の役割を任されることも多くなります。すると、それまで感じていた仕事のやりがいを感じにくくなくなり、喪失感を覚える人も増えていくのです。

――そうして、気持ちが沈んで仕方がなくなったり、自分の感情の起伏にイライラしてしまったりするときは、どのように心を保てばいいですか?

「共感」がキーワードです。信頼できる友人に悩みを打ち合明けてみましょう。「わかる!私もそうだよ、つらいよね」と思いを分かち合えると、溜め込んでいた感情を解放できて心が軽やかになります。

経験者の先輩もいいですね。私自身、年上の女性に「思春期がいつか終わるように、更年期もいつか終わるわよ」と言ってもらって、救われた思いをした経験があります。

pixta_39311304_M-min.jpg

――悩みを打ち明けるのは、夫や異性のパートナーでもいいのでしょうか?

もちろんです。男性だから更年期のことはわからないと決め付ける必要はありません。個人差はありますが、男性も女性と同じように更年期特有の症状はあります。例えば同年代の異性のパートナーなら、性機能や仕事に対するアグレッシブな感情が衰えていくことに不安を感じたり、自信を失ったりしているかもしれません。

お互いの心身に起きている変化を共有できると、「目の前にいるパートナーとゆっくり語り合い、支え合う扉を開けてみたい」と感じ、パートナーシップがいい意味で変化するきっかけになるでしょう。更年期は、未来に向けてパートナーとの関係性を再構築するのに適した時期でもあるのです。

――気持ちを打ち明けられる人がいない、いても話しにくいといった場合の解決策はありますか?

若い頃に読んだ小説や、名作映画などを見直してみてはいかがでしょうか。小説や映画には、その本質を理解するのにふさわしい時期があるので、読むタイミングによって新しい発見や気付きが得られるものです。

特に、同じ年頃の女性が登場する小説などを読むと、以前は読み飛ばしてしまった登場人物の心の機微に気付き、そこに現在の自分を投影することができるでしょう。すると、登場人物が吐露する感情が自分の感情に重なり、内側に溜め込んでいたさまざまな感情が湧き出してくるはずです。

・信頼できる人に話すこと
・自分に似ている第三者に感情移入すること

このように、ありのままの気持ちを表出する体験から得られるすっきり感を、心理学的には「カタルシス効果」といい、心の中に溜まった澱(おり)を浄化する効果があるといわれています。カタルシス効果は、自分の素直な感情に気付き、思い切り泣くことでも得られますよ。

更年期は、もう一度生まれ変わる時期

――心が揺れやすくなると、やはり涙もろくなりますよね。すると、「年をとったな」「弱くなったな」とマイナスに捉える人もいます。

悩みを打ち明けたときや、映画の主人公に共感したときなど、素直な感情を揺さぶられて思いがけず涙があふれるとすっきりしますよね。これこそまさにカタルシス効果。なので、涙もろくなることは、決して悪いことではないんです。

アメリカの生化学者であるウィリアム・H・フレイは、涙にはストレスに関係する物質が含まれていることから、涙を流すことにはストレスを洗い流す効果があるのではないか、と説きました。この説自体はまだ証明されたわけではありません。ですが、思い切り泣くことで副交感神経が優位になるため、リラックスできることは確かです。

解消できない思いを長く抱えていると、緊張感が続き、神経が高ぶりやすくなってしまいます。そうしたときに「気持ちを理解してくれてうれしい」「自分の言いたかったことはこれだ」と思える出来事に遭遇すると、涙があふれ、心の重石が取れることがあります。このとき体の中では副交感神経が優位に働いて緊張が解け、リラックスした状態になっているわけですね。

pixta_59655711_M-min.jpg

――心の揺れと上手に付き合うことが、更年期の心をすこやかに保つコツともいえそうですね。

私たちの中には、「年をとったら賢くならなきゃいけない」という思い込みが、少なからずあると思うんですよ。物事に動じず、落ち着いて若者の気持ちを受け止め、ちょっといい助言をする...みたいなイメージですね。

もちろん、そうなれたらいいですが、現実には社会の変化、自分の変化を受けて右往左往するのが人間。「ここまで経験を積んで、こんなに成長したぞ」と感じたところで、更年期は体調の変化と同時に自分の軸がゆらぎ始めるわけですから、動揺して当たり前なんです。この時期に心が揺れるのは、人間である証だといえるかもしれません。

大切なのは、心の揺れを含めて、変わっていく自分を受け入れること。そして、これまでの延長ではいられない以上、更年期を起点に、もう一度生まれ変わっていく人生の流れを肯定することです。

――確かに、お話を伺って「心の揺れは、人生との向き合い方を変えるためのサインなのかな」と感じました。

更年期が閉経前後の10年間といわれているのは、人生の通過儀礼的な意味があるからなのかもしれませんね。老いていく自分を認め、慈しみ、いたわりながら新しい人生に踏み出していくためには、10年もの年月がかかるのでしょう。

「柳に雪折れなし」「堅い木は折れる」ということわざがあります。「堅い木」のように頑固で強情なままでは、思わぬ方向から降りかかってくるストレスに耐えきれません。一方、「柳の木」のようにしなやかな心で更年期の変化を受け止めることができれば、思いがけない不調やままならぬ状況にも抗うことなく、更年期以降の人生の流れを肯定し、楽しみながら生きていけると思います。

――ありがとうございました。最後に、更年期の心の浮き沈みに悩む女性に、メッセージをいただけますか。

揺れ惑う時期には、「戻る場所」があることがとても重要です。それは、家族や友達かもしれないし、仕事や趣味かもしれません。ありのままの自分にフィットする場所に気付き、大切にしてください。それが、更年期以降の女性の心の健康を守るカギになります。

つらくなったら、「戻る場所」を頼りましょう。更年期の10年には、必ず出口があります。投げ出さず、あきらめずに、ゆっくり生き直していきましょう。


お話を伺ったのは...

omika_whiteshirts2a-min.jpg

大美賀直子(おおみか・なおこ)さん

メンタルケア・コンサルタント

大学卒業後、出版社やIT関連企業などで編集者として勤務。その後、心理学やカウンセリングを学び、公認心理士、精神保健福祉士、産業カウンセラーといった資格を取得。メンタルケア・コンサルタントとして、ストレスや人間関係にまつわるコラム執筆やメディア出演、講演、書籍の執筆・監修などを行う。All About「ストレス」ガイド。最新著書は「大人になっても思春期な女子たち」(青春出版社)
https://www.mentalcare555.com/

※掲載している情報は、記事公開時点のものです。
ヘルスケア
この記事をシェアする

この記事は、働く女性の医療メディア
ILACY(アイラシイ)の提供です。

“おすすめ記事recommended

CATEGORYカテゴリー