老化のせいじゃない?更年期の手のこわばり(メノポハンド)の原因と今日からできる対策

「40代に入ってから、手がこわばるようになった」
「閉経の後、手指の慢性的な関節痛やしびれが気になる」
「医師を受診したけど、年のせいだから仕方ないと言われてしまった」
こんな悩みを抱えていませんか?
これまで更年期にあらわれる手の不調は「加齢のせい」「手指の使いすぎ」「治らない」とされることが多く、適切な治療法が明確ではありませんでした。
しかし、さまざまな研究と医学の進歩により、更年期の手の不調は予防できる可能性があることが判明しています。そこで今回は、最近注目を集めている更年期における手の不調の原因や対処法、自宅でできるセルフケアについて紹介します。手の不調への対策を理解し、病気の発症や症状悪化を予防していきましょう。
更年期に起きる手の不調は「エストロゲン」が関係

そもそも更年期とは閉経前5年と閉経後5年の10年間を指し、一般的には45歳から55歳頃の年齢に該当します。個人差はありますが、多くの女性が50歳前後で閉経を迎えます。
これまで更年期に手の不調が起こる原因ははっきりとしませんでしたが、近年の研究を通じて、女性が閉経を迎えたあと、女性ホルモンの「エストロゲン」が急激に減少することが原因の1つとなっている可能性が指摘されています。例えば台湾で行われた研究(※)では、エストロゲンの減少が以下のような手の不調に関与していることが示されました。
- 腱鞘炎(けんしょうえん)
- ばね指
- 手根管症候群 など
エストロゲンの分泌量は25歳でピークを迎えて少しずつ減少を始め、50歳ころの閉経にかけて急激に減少したあと、60歳以降になると低いレベルで一定に保たれる傾向です。
エストロゲンの受容体(受け取る場所)は関節などに多く含まれているため、更年期にエストロゲン分泌量が急激に減少することが、手の不調が起こる要因の一つといわれています。
ただし、女性の更年期症状は個人差が大きく、すべての人が同じ症状をたどるとは限りません。手指の症状は、エストロゲンだけでなく遺伝や生活習慣、その他の持病などが要因となるケースがあるため、適切な医療機関へ受診することをおすすめします。
※出典: Hand tendinopathy risk factors in Taiwan A population-based cohort study
更年期の手の不調は3段階
こういった更年期の手の不調には大きく分けて「予兆」「メノポハンド」「病気」の3段階があります。
更年期の手の不調は、放っておくと症状が進行し、病気になる可能性が高くなるため、早めの対策をおすすめします。
予兆の段階
出産した後に、手の痛みやしびれなどの不調がある場合は予兆段階と考えられます。産後、授乳を始めるとエストロゲンの分泌が急激に低下し、いわゆる「プチ更年期状態」へ移行します。手指のしびれや手首の痛みは、エストロゲンの低下により腱同士がすれたり、関節のクッションになっている滑膜(かつまく)が腫れたりすることが原因の一つとされています。
手の不調は、授乳をやめて月経が通常に戻るとエストロゲン分泌も安定するため、多くの場合は治まります。ただし産後に手の不調が起きる方は、そもそもエクオールの産生が難しい体質であるケースが多く、更年期になると同じ症状が再発する確率が高いといわれています。
また、産後とは違い、更年期から先はエストロゲン量の分泌量が回復することがないため、症状を放置すると病気へと進行する可能性があります。産後に手の不調が現れた場合は、将来的に現れる更年期症状の予兆と捉えて、早めに対策をはじめることも一案です。
更年期の手の不調が病気になる前の症状(メノポハンド)
「メノポハンド」とは、更年期に起きる、具体的な病気と診断される前に起きる手の不調の総称です。エストロゲンが低下しはじめる40歳を過ぎたあたりから慢性的に発症するケースが多いです。
代表的な症状として、エストロゲンの減少などにより関節を覆っている薄い滑膜が腫れ、軟骨同士が押されてぶつかることで感じる「痛み」や「こわばり」があります。このような症状に対して対策をせずにいると、徐々に症状が進行し、指の形の変形や、重篤な手の病気へ進行してしまう可能性があります。
近年では医療の進歩により、メノポハンド期に適切な対策をおこなえば、病気の発症を防ぐことができると判明しています。以下で紹介するエストロゲンの機能を補う代替療法や、エクササイズで関節の腫れやしびれを予防する方法をご活用ください。
メノポハンドと思われる症状がある場合は、自己診断せず手の専門医を受診し、レントゲンやMRI・採血などの検査を受けることをおすすめします。これは、手の不調がメノポハンドではなくリウマチや膠原病のような病気が原因となっている場合があるからです。メノポハンドの治療は、手の不調の原因が更年期に伴うエストロゲンの減少によることを確認してから開始しましょう。
更年期の手の不調が悪化して起こる病気
更年期にあらわれたメノポハンドを、何も対策せず放置してしまった場合、10年以内に関節の変形などの病気を発症する可能性が高くなります。次の表に、メノポハンドが悪化して発症する疾患名と症状をまとめました。
疾患名 | 症状 |
---|---|
ヘバーデン結節 |
・人差し指から小指にかけて第一関節が腫れたり変形して曲がる ・人によっては痛みがでたり親指が腫れる ・40代以降の女性に多く見られる |
ブシャール結節 |
・人差し指から小指にかけて第二関節が腫れたり変形して曲がる ・痛みが強くあらわれる ・40代以降の女性に多い |
ばね指 |
・曲がった指が戻らなくなる ・更年期のほか、妊娠中や産後に生じることが多い |
手根管症候群 |
・人差し指から中指を中心にしびれや痛みがあらわれる ・親指と人差し指の先をつけるOKサインが難しくなる ・更年期、妊娠中、骨折後、手を使う重労働者におこりやすく、女性が圧倒的に多い |
母指CM関節症 |
・親指の付け根にあるCM関節に痛みがあらわれる ・ジャムのふたなどを開けることが難しくなる ・進行すると亜脱臼をおこす ・加齢や脱臼、骨折した後におこる |
ドケルバン病 |
・手首の親指側が腫れる ・痛みがあらわれる ・更年期、妊娠中、産後、PC操作など指を多く使う仕事、スポーツマンにみられる |
病気が発症し症状が進行した後も治療法はあります。例えば、ブシャール結節で指が曲がらなくなってしまった場合でも、変形した関節を取り除き稼働性のある人工関節入れることで指の可動性を取り戻すことが可能です。
手術には様々な方法がありますので、具体的な病名の診断を受けたのち、担当医と相談しながら症状や生活スタイルに合わせた治療の検討をすすめるとよいでしょう。また治療には健康保険や高額療養制度が適用されます。
更年期から症状があらわれる手の不調は、高齢になりエストロゲンが欠乏することで症状は治まる傾向があります。しかし、たとえ痛みが治まっていても、変形により日常生活に支障がでている場合は治療を受けることをおすすめします。
更年期の手の不調の具体的な対処法

更年期の手の不調を悪化させないためにも、症状が軽いうちに適切な対策をおこなうことが重要です。日常生活で手軽に取り入れられる対策のため、すぐに実践できるでしょう。
予兆段階の場合や、軽い症状の場合
エクオールは、大豆イソフラボンの成分であるダイゼインが、腸内のエクオール産生菌の作用によって作られる成分です。構造上エストロゲンと似た働きをするため、エクオールを摂取することにより更年期症状の緩和へ効果が期待できるとして注目を集めています。
ただし、体内でエクオールを作れる人と作れない人に分かれる点に注意が必要です。
体内にエクオール産生能がある人は、大豆食品を積極的に食べることでエクオールの産生を促すことができます。一方で体内でエクオールを産生できない場合、エクオールを直接摂取できるサプリメントを活用しましょう。サプリメントを選ぶ際、大豆アレルギーがある場合は、大豆を原料としない「合成エクオール」を選ぶようにしてください。
体内のエクオール産生 | エクオール摂取の方法 |
---|---|
できる | 大豆食品 |
できない |
サプリメント ※大豆アレルギーがある場合は合成エクオールを選ぶ |
ご自身にエクオール産生能力があるかどうかは、市販の検査キットで判別できます。
また、手のしびれや痛み予防には、後述で解説するエクササイズも効果的です。数分でおこなえるため、家事の合間やテレビを見ながら取り組み、習慣化するとよいでしょう。
何年も続く痛みやこわばりなど、具体的な不調がある場合
長期にわたり痛みやこわばり・夜間痛などが続く場合は「日本手外科学会」に登録された手の専門医を受診しましょう。診断にはレントゲンやMRIなど、必要とされる検査を受け、大きな病気が隠れていないか確認します。
大きな病気がないことがはっきりしてから治療を開始します。治療は痛みや変形など症状に応じて進められるため、医師の指示に従うことが大切です。
セルフで改善!更年期の手の不調3つの対策

自分で手軽にできるセルフ対策を紹介します。日常に取り入れ習慣化することで、病気の発症を予防しましょう。
エクオールを補う
以下の表にエクオールと納豆・豆腐の1日摂取量をまとめました。
エクオール(サプリメント) | 10mg/1日 ※サプリメントに表記されている用量を参照 |
納豆 | 2パック/1日 |
豆腐 | 2/3丁/1日 |
豆乳 | 200㏄ |
エクオールを選ぶ際は、パッケージに記載してある成分表をよく読むことも大切です。エクオール表示以外にイソフラボン10mgなどと表示されているものがあります。イソフラボン用量はエクオールの用量ではないため、エクオール換算で10㎎摂取するためには4倍の摂取が必要になります。また、前述のように大豆アレルギーのある人は「合成エクオール」を選びましょう。
手のストレッチをおこなう
手の不調を理由に、動かさないでいると症状を悪化させてしまいます。以下の表は、自宅でできるエクササイズ法をまとめたものです。
ストレッチ名 | 方法 ※痛みを感じたら中止してください |
---|---|
手のひらストレッチ (左右とも各1回7セット) しびれ・痛みを改善 |
1. 左右どちらかの肘をまっすぐ伸ばす 2. 伸ばしたほうの手のひらを上の向ける 3. 反対の手で指先を下に向け伸ばす 4. 10秒間キープ POINT:肘をまっすぐにして腕をしっかり伸ばす |
指先合わせ (左右とも各1回7セット) 親指の根元にあるCM関節の動きをよくし動く範囲を維持する |
1. 親指を他の指につけて3秒キープ 2. 4本の指で繰り返す POINT:親指をなるべく動かす 親指の先端を押さない (指の根元に負担をかけないようにする) |
関節プッシュ (左右とも各1回7セット) 指の関節変形予防 |
1. テーブルなど平らな台に手のひらが下になるようにつける 2. 右手人差し指で左手人差し指の第一関節を3秒押す 3. 右手人差し指で左手中指第一関節を3秒押す 4. 右手人差し指で左手薬指第一関節を3秒押す 5. 右手人差し指で左手小指第一関節を3秒押す POINT:関節を押したときに親指と人差し指の根元がかたくなるようにする |
各ストレッチは数分でおこなえるため、家事の合間や隙間時間で取り組むことが可能です。ただし、ストレッチ中に痛みがあらわれた際は無理せず中止しましょう。ストレッチをおこなうときの注意点は以下の通りです。
- 無理をしない
- ゆっくりおこなう
- 力を入れすぎない
- 急激に力を入れ関節や腱に負担をかけない
自身でストレッチをおこなうことに不安がある人は、手の専門医へ相談し、適切な治療やリハビリなど受けることをおすすめします。
こわばりが強いときは温める
朝方に手のこわばりが強いときは、次のようなことを試しましょう。
- 起きたときに手を振って血の流れをよくする
- 就寝時に手袋をつける
- ビタミンEの摂取
寝ている間は体が動いていないため、血の流れが穏やかになります。朝方のこわばりは、骨や関節の動きに必要なエストロゲンやエクオールが指先まで行きわたらないことも原因の一つです。さまざまな方法を組み合わせながら、自分に合った方法を選びましょう。
更年期の手の不調を悪化させるNG行動
更年期の手の不調を悪化させる行動の一例を紹介します。
- テーブルなど拭く際に指先に力を入れる
- タオル絞りの動作のとき握りしめる
関節の痛みやしびれを悪化させないためには、肩や肘・手首の大きな関節を動かし、指の負担を減らしましょう。また、動作はゆっくりおこなうことがポイントです。特にタオル絞りは指先や手首に負担がかかりやすいため、数回に分けて絞るようにしてください。
日常生活においては、シャンプーブラシや、鉛筆・フォーク等につけるスポンジなどの補助具を使用すると手の負担を軽くできます。特に握りしめるような動作は、人によってはこわばりにつながり、痛みが悪化する可能性があります。このような補助具は、通信販売や福祉用品を取り扱う店舗で購入可能です。
更年期の不調はエクオールのサプリで改善が期待
更年期のエストロゲン減少は、関節や骨に限らず自律神経など身体のさまざまな部分に影響を及ぼすと考えられています。対して、エクオールは手の不調に限らず、更年期特有の身体におこる不調一般に対しても効果が期待できます。
例えば更年期の女性を対象に行われた研究(※1)では、エクオールの摂取がイソフラボン(大豆の成分)の摂取よりも筋肉・関節痛の軽減効果が高いことが確認されました。
他にも、エクオールの効果を計測した研究(※2)によると、エクオールの摂取によって以下の症状の改善が確認されました。
- ホットフラッシュ(ほてり・のぼせ)
- 冷え性
- 首や肩のこわばり
- 疲労感
- 抜け毛
エクオールは血流の改善を通じて筋肉のこわばりや痛みを軽減する(※3)ほか、抗酸化作用や炎症作用・血管拡張作用による動脈硬化の改善効果が確認された研究(※4)もあります。
更年期症状を和らげる効果が期待できるエクオールですが、腸内フローラの乱れやエクオール産生能がないことで約7割の女性は産生できないため、サプリメントからの摂取も大切です。エクオールのサプリメントを積極的に摂取することで、更年期症状の緩和が期待できるでしょう。
また更年期の不調にはエクオール摂取に加え、免疫機能に深い関係のある腸内フローラを整える必要があります。エクオールが持つ力のサポート役である腸内フローラを整えるには、難消化性で腸まで届きやすいオリゴ糖「ラクトビオン酸」などを併せて摂取することもおすすめです。
エクオール含有サプリの効果についてさらに詳しく知りたい方は、こちらの記事もご覧ください。
エクオール含有サプリの効果とは?副作用や注意点を医師が解説
手の不調には適切な対応を
更年期におこる手の不調は、女性ホルモンであるエストロゲンの急激な減少が要因の1つと考えられています。症状は徐々に進行するため、産後や40代半ばで症状があらわれたときからエクオールの摂取や手のストレッチをおこない、病気を予防する確率をアップさせていきましょう。また、症状が強くでている人は、手外科学会に登録している専門医へ相談してみてください。
この記事を監修した人

間瀬 有里(ませ ゆり)医師
医学博士
専門分野:婦人科
東京ミッドタウンクリニック、浜松町ハマサイトクリニックに勤務。日本医科大学医学部医学科卒業。日本産科婦人科学会専門医。日本産科婦人科学会指導医。日本女性医学学会認定女性ヘルスケア専門医。東京ミッドタウンクリニックと同フロアでは、管理栄養士が常駐し、より健康でより美しい生活をサポートするためのヘルスケアショップ
TMMC Plus(ティーエムエムシープラス)が展開。
東京ミッドタウンクリニック:https://www.tokyomidtown-mc.jp/
浜松町ハマサイトクリニック:https://www.hamasite-clinic.jp/
TMMC Plus(ティーエムエムシープラス):http://www.tmmcplus.com/
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