【歯科医師監修】歯が抜けたまま放置するリスクと、顔・体への影響や対処法

東京ミッドタウンデンタルクリニック

中村 都(専門分野:一般歯科・審美歯科)

「奥歯が1本抜けたけれど、見えない場所だし、反対側で噛めるから大丈夫」「歯医者に行くのが怖くて、ついそのままにしている」このように思う方も多いでしょう。
実は、たった1本の歯を失っただけで、口の中ではドミノ倒しのように健康な歯を失ってしまうことがあります。それだけでなく、放置することで顎の骨が痩せて顔つきが老けたり、全身の不調につながったりすることが医学的に明らかになっています。

この記事では、40代や50代から急増する歯の喪失リスクと、歯を抜けたまま放置した際のトラブルを歯科医の視点で徹底解説します。手遅れになって後悔する前に、正しいリスクと骨を守るための治療法を理解しましょう。

※本記事は、2022年9月27日公開「歯を失うとどうなる?放置することによるさまざまな影響」を更新したものです

なぜ40代・50代から歯を失う人が急増するのか?

厚生労働省が実施した令和4年歯科疾患実態調査によると、45歳から54歳の人のうち、歯周ポケットが4ミリ以上ある、つまり歯周病が進行している人の割合は約44%、55歳から59歳では約50%に達します.これは、2人に1人が歯を失う予備軍であることを意味しています。なぜこの年代で急激にリスクが高まるのでしょうか。その背景には、加齢変化に加え、ホルモンバランスの大きな変化が深く関わっています。
特に女性の場合、更年期を迎えると女性ホルモンの分泌が低下します。これにより骨密度が低下し、歯を支えている顎の骨がもろくなりやすくなります。また、唾液の分泌量も減少するため、口の中が乾燥しやすくなります。唾液には口内の細菌を洗い流す自浄作用や、粘膜を保護する働きがありますが、その機能が低下することでむし歯菌や歯周病菌が繁殖しやすい環境になってしまうのです。
これらは初期段階では自覚症状が乏しく、痛みや揺れを感じたときにはすでに手遅れで、抜歯せざるを得ない状況になっているケースも少なくありません。40代や50代は、歯を守るための行動が欠かせません。

【図解で解説】歯を抜けたまま放置すると起こる5つの深刻なリスク

歯は親知らずを除いて28本で一つのチームとして機能しています。たった1本の欠員が、チーム全体の崩壊を招きます。具体的にどのような変化が起こるのでしょうか。

歯のドミノ倒しと挺出

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歯は互いに押し合うことで位置を保っています。歯が抜けたスペースを放置すると、支えを失った隣の歯が、空いたスペースに向かってドミノのように斜めに倒れてきます。これにより歯ブラシが届かない隙間ができ、新たなむし歯や歯周病の原因になってしまいます。
また、例えば下の歯が抜けた場合は上の歯が、噛み合う相手を求めて骨から飛び出してきます。これを挺出と呼びます。挺出が起こってしまうと、治療しようとしてもスペースが足りず、矯正治療や伸びてしまった健康な歯を削る、神経を抜くといった大掛かりな処置が必要になってしまいます。

顎の骨が痩せて老け顔になる

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顎の骨は、噛む刺激が伝わることでその形を維持しています。歯を失い刺激がなくなると、骨は役割を終えたと判断し、みるみるうちに痩せていきます。これを廃用性萎縮(骨吸収)と呼びます。
骨が痩せると、その上にある歯ぐきも下がるうえ、口元の皮膚を内側から支える力がなくなり、口周りのシワが増えたり、頬がこけたりして実年齢よりも老けて見られるようになります。一度痩せてしまった骨を元に戻すのは非常に困難です。放置期間が長いほど、将来的にインプラント治療などを希望しても、骨がなくて治療できないと断られるリスクが高まります。

残った歯に負担が集中する

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歯を失うと、すべての歯で分散していた噛む力が残りの歯に集中してしまいます。特に奥歯を1本失うと、その負担は他の歯に過重にかかり、以下のようなトラブルを引き起こします。

  • 残った歯にヒビが入る
  • 破折

過度な力がかかり続けることで、健康だった歯の根元が割れてしまうことがあるうえ、揺さぶられるような力が加わることで、歯を支える骨の吸収が加速します。

全身の不調

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噛み合わせのバランスが崩れると、顎の関節に負担がかかり、顎関節症を引き起こすことがあります。また、顎周辺の筋肉の緊張は、首や肩の筋肉にも連動するため、慢性的な肩こりや頭痛、めまいなどの原因になることも少なくありません。さらに、食べ物を十分に咀嚼できずに飲み込むことで、胃腸への負担も増大し、栄養吸収の効率も下がってしまいます。

経済的損失

今は忙しいからと歯が抜けた状態を放置している間に、お口の中の環境は日々悪化します。倒れ込んだ歯を戻すための部分矯正費用や痩せた骨を再生する手術費用など、早期に対処していれば不要だったはずの高額な治療費がかかるケースもあるでしょう。経済的な観点からも、早期治療こそが最もコストパフォーマンスの良い選択です。

「この歯はまだ大丈夫」は危険!放置期間別のシミュレーション

痛みがないからといって放置するのは非常に危険です。歯を失ってからの時間は、治療の難易度や費用に直結します。ここでは、放置期間によって口の中で何が起こるのかを時系列でシミュレーションしてみましょう。

放置して1ヶ月~3ヶ月

歯が抜けて1ヶ月目〜3ヶ月目は、抜歯後の歯ぐきの傷口がふさがり、一見すると何の問題もないように見えます。痛みも落ち着くため、このまま様子を見ようと油断しやすい時期です。
しかし、歯根からの刺激が途絶えた顎の骨の中では、すでに骨の吸収(骨が痩せる現象)が静かに始まっています。まだ周囲の歯は動いていないことが多く、この段階で歯科医院を受診すれば、インプラントやブリッジなどの治療も最もスムーズに、そして選択肢が多い状態で進めることができます。

放置して半年~1年

抜けた歯を放置して半年〜1年経過すると、目に見える変化や自覚症状が現れ始めます。まず、抜けた歯の両隣にある歯が、空いたスペースに向かって徐々に傾き始めます。さらに、噛み合う相手を失った対合歯が骨から伸びてくる挺出も始まります。これにより、歯と歯の間に隙間ができて食べ物が詰まりやすくなったり、噛み合わせの高さが変わって顎に違和感を覚えたりするようになります。
この段階で治療を始める場合、傾いてしまった歯を少し削って調整するなど、本来なら不要だった処置が追加で必要になる可能性があるでしょう。

放置して3年以上

歯が抜けてから3年以上放置すると、口の中だけの問題では済まなくなります。顎の骨は大幅に痩せ細り、外見からも口元がしぼんだような老けた印象を与えてしまうこともあるでしょう。また、歯並び全体のバランスが崩壊しているため、失った部分を補うだけでなく、全体的な噛み合わせを治すための矯正治療が必要になるケースも少なくありません。
インプラントを希望しても、骨が足りずに骨造成の手術が必要になったり、最悪の場合は治療そのものを断られたりするリスクも高まります。治療期間も費用も、当初の数倍に膨れ上がっている可能性が高いでしょう。

骨を守る視点で選ぶ!3つの治療法の徹底比較

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失った歯を補うための治療法には、主にインプラント、ブリッジ、入れ歯の3つがあります。それぞれにメリットやデメリットがありますが、長期的に考えると選ぶ際の主な基準は下記の2点です。

  • 顎の骨が痩せるのを防げるか
  • 残っている健康な歯に負担をかけないか

目先の安さや手軽さで選んでしまった結果、数年後に骨が痩せ細ったり、支えにしていた健康な歯がダメになったりして、再治療が必要になるケースは後を絶ちません。将来を見据え、10年後や20年後も自分の口で食事を楽しめるかどうかという視点で比較してみましょう。

インプラント

インプラントは、チタン製の人工歯根を顎の骨に直接埋め込み、その上に人工の歯を装着する治療法です。最大の特長は、天然の歯と同じように骨にしっかりと固定され、噛む刺激が骨に直接伝わることです。これにより、歯を失った後に起こる骨が痩せる現象を防ぐことができます。
また、自立した構造であるため、ブリッジや入れ歯のように隣の歯を削ったり、バネをかけて負担を強いたりすることが一切ありません。残っている他の歯を守るという意味でも、医学的に最も理にかなった選択肢です。一方で、保険が適用されない自費診療であるため費用が高額になることや、外科手術が必要になる点がデメリットとして挙げられます。

ブリッジ

ブリッジは、失った歯の両隣にある健康な歯を削り、そこを土台にして橋を架けるように人工の歯を被せる治療法です。セメントで固定するため、自分の歯に近い感覚で噛むことができ、取り外す手間もありません。しかし、最大の欠点は土台となる健康な歯を大幅に削らなければならない点です。そのうえ、人口の歯と自分の歯を連結しているために磨きにくく、土台となっている自分の歯に問題が起きるとブリッジを外しての治療が必要となり、将来的にその土台の歯まで失ってしまうリスクがあります。また、歯がない部分の骨には刺激が伝わらないため、骨の吸収は進行してしまいます。

入れ歯

入れ歯は、人工の歯がついた床と呼ばれる土台を、バネなどの留め具を使って残っている歯に固定する取り外し式の装置です。外科手術が不要で、保険適用であれば非常に安価に作製できるため、噛む機能を手軽に回復させることができます。
ただし、噛む力は天然の歯の20パーセントから30パーセント程度にまで低下すると言われています。また、バネをかけられた歯には揺さぶられるような力がかかり続けるため、その歯の寿命を縮める大きな原因になります。ブリッジと同様に、歯がない部分の顎の骨は徐々に痩せていくため、長期間使用していると入れ歯が合わなくなり、作り直しが必要になることが一般的です。

治療法 骨の吸収防止 残った歯への負担 審美性 費用目安 治療期間
インプラント ◎(防げる) なし 高い 長い
ブリッジ ×(防げない) △(削る必要あり) 中程度 短い
入れ歯 ×(防げない) △(バネをかける) 低い 短い

【歯科医師が回答】歯の喪失と治療に関するよくある質問(FAQ)

治療に踏み切れない方が抱えることの多い疑問について、歯科医師の視点から回答します。

奥歯が1本なくても普通に噛めますが、治療は必要ですか?

いいえ、早急な受診をおすすめします。痛みがないのは今のうちだけで、1本でも歯がないと、噛み合わせのバランスが崩れ、残っている健康な歯に過剰な負担がかかります。その結果、数年以内に他の歯が割れたり、ドミノ倒しのように倒れてきたりするリスクが非常に高くなります。今は噛めていても、口の中の崩壊は確実に進行しています。

歯が抜けてから数年経っていますが、今からでもインプラントなどの治療はできますか?

はい、多くのケースで治療可能です。放置期間が長いと顎の骨が痩せている可能性がありますが、現在は骨造成という骨を増やす処置などの技術により、リカバリーできる可能性が高まっています。もう手遅れと諦めず、まずは精密検査を受けて現状を確認することが大切です。

治療期間はどれくらいかかりますか?

治療法と骨の状態によって異なりますが、一般的な目安として、ブリッジや入れ歯は早ければ数週間から1ヵ月程度で完了するでしょう。インプラントは骨と結合する期間が必要なため、3ヶ月から半年程度、骨造成を伴う場合はさらに数ヶ月かかります。お仕事の都合などに合わせて治療計画を立てることも可能ですので、まずは歯科クリニックにご相談ください。

痛いのが苦手で歯医者が怖いのですが、手術なしで治せますか?

手術を伴わない治療法のほか、ブリッジや入れ歯なども選択可能です。また、インプラントなどの外科処置が必要な場合でも、麻酔技術を活用し、術中・術後の痛みを最小限に抑える配慮を行うことができます。静脈内鎮静法という眠ったような状態で治療を受ける方法などもありますので、歯科クリニックに確認してみると安心です。

1本の歯を失った時が、残りの歯を守るスタートライン

歯を失ったまま放置することは、単にものを噛めなくなるだけでなく、顔貌の変化や全身の健康、そして残っている大切な歯の寿命までも奪ってしまう危険な行為です。
しかし、もう手遅れかもしれないと諦める前に、まずは歯科クリニックを受診し、5年後、10年後の健康を見据えた治療を行うことが重要です。その一歩が、あなたの健康と笑顔を守ることにつながります。


東京ミッドタウンデンタルクリニック

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大江戸線「六本木駅」直結の歯科「東京ミッドタウンデンタルクリニック」。 むし歯、歯周病などの一般歯科診療から、矯正、インプラント、麻酔、口腔外科など、国内外で専門技術を磨いた医師が、患者様お一人おひとりにあった施術を提供しています。 治療は半個室、個室で対応。患者様が快適に過ごせる空間を創り上げ、リラックスできる環境で治療を受けていただくよう取り組んでいます。

〒107-6206 東京都港区赤坂9-7-1 ミッドタウン・タワー6F 東京ミッドタウンクリニック内
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SUPERVISERこの記事を監修した人

PROFILE

中村 都 (なかむら くに) 医師

歯学博士
専門分野:一般歯科・審美歯科

東京ミッドタウンデンタルクリニック院長。臨床研修指導歯科医。 日本大学歯学部矯正学教室入局、松本歯科大学総合歯科学研究所入職、Eastman Dental Institute of University College London,University of London, in the U.K、International Center For Excellence in Dentistry in the U.Kを経て、現在に至る。

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※掲載している情報は、記事公開時点のものです。
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