龍多美子さん「たったひとつの下着が人生を変える」女性に自信を与える魔法の技術
25歳のときに、女性の心と体に寄り添う下着専門店「Rue de Ryu(リュー・ドゥ・リュー)」を立ち上げた龍多美子さん。これまで70,000人以上の女性のフィッティングに携わり、体に対する意識が180度変わる魔法のような技術で、全国各地にファンを増やし続けています。
「下着は、女性が"女であること"を実感するためのツール」と話す龍さんに、40代、50代になっても「女性としての自信を持ち続けるための秘訣」についてお聞きします。
フィッティングは、体に自信を持ってもらうための技術
――龍さんは、これまで70,000人以上の女性のフィッティングを行ってこられたそうですね。下着選びにおける、女性の共通の悩みはありますか?
龍多美子さん(以下、龍): 自分の体が客観的にどう見えるかは、鏡を見てもわからないですよね。自分では「もっとやせたほうがいい」と思っても、ほかの人から見れば、とても魅力的な体かもしれません。それにもかかわらず、胸やお尻、ウエスト、脚など、コンプレックスのある部分にばかりフォーカスしてしまって、「私はダメ」という人が多いです。
そうしたコンプレックスの根底にあるのは、子供のころに言われた一言。例えば、思春期のころにお母さんから、「あなたの胸は小さいわね」と言われたとしますよね。そんな些細な一言が、「私はダメなんだ。女としての価値がないんだ」というコンプレックスに変わっていくんです。40代や50代になっても、そのコンプレックスは根強く残ります。
――フィッティングによって、お客様のコンプレックスが解消されたことはありますか?
龍: お客様の中には、鏡の前でフィッティングをした瞬間に、泣き崩れる方もいます。「下着を着けただけで?」と思うかもしれませんが、皆さん本当に、ボロボロ泣かれるんですよね。「自分なんて価値がないと思っていた」とおっしゃる方もいます。
正しくブラジャーを着けることによって、胸の丸みがきれいに出たり、ウエストがキュッと引き締まったりします。想像もしていなかった自分の姿が鏡に映ることで、「私の体も悪くないじゃない」って、自信を持てるようになるんです。
きっかけは雑誌のグラビアページだった
――龍さんは、なぜ下着に興味を持ち始めたのでしょうか?
龍: 16歳のときに交際していたボーイフレンドから、雑誌のグラビアページを見せられたことがきっかけです。下着姿で立っている外国人女性の写真で、その女性が着けているガーターベルトを指しながら、彼が「こういうの、いいよね」って言ったんですよ。「これを着けてほしいということなんだな」と理解して、六本木にあった靴下専門店で、ガーターベルトとストッキングを買いました。自分の部屋でそれらを初めて着けた瞬間に、「女ってこういうことなんだ!」と、全身に鳥肌が立ったんですよね。それから、お小遣いを貯めてはインポートの下着を買い集めて、どんどんのめり込んでいきました。
――その後、販売もするように?
龍: 当時、インポートをメインに扱うランジェリーショップが表参道にあったんです。短大1年生のときにその店に行き「将来、自分の店を持ちたいので、アルバイトとして使ってください」とお願いしました。「ちょうど募集をしていたのよ」と、その場で採用されたのが、フィッターとしての私の人生の始まりです。
――リュー・ドゥ・リューを立ち上げたのは25歳とのことですが、20代のうちに独立したいという思いがあったんですか?
龍: 特に計画は立てていませんでしたね。短大を卒業した後は、22歳で結婚して、引き続きランジェリーショップで働いていました。そろそろ独立したいという気持ちが芽生え、23歳のときに退職。当時、お客様がすでについていましたから、メーカーから商品を借りて、訪問販売を始めました。
その後、結婚相手とは離婚し、25歳で自分の店をスタートしました。1982年でしたから、バブルの直前ですね。日本経済が上昇していく時期だったので、タイミングとしてはとても良かったかもしれません。
――お店を始めてから、今年で何年でしょうか?
龍: 36年目を迎えます。代官山で15年、恵比寿で8年、表参道で10年店舗を構え、その後、吉祥寺に移りました。おおよそ10年のサイクルで、移転のタイミングが訪れるようです。
数値では判断できない「その人らしい体」
――お客様は一人ひとり、体型も、なりたい姿も異なると思います。フィッティングをする際に、一番大事にしているポイントを教えてください。
龍: その人らしい体に戻るための下着を選ぶというのが、当店のコンセプトです。なので、トップやアンダーは一切測りません。お客様の体を知るための判断材料は骨格です。骨格っていうのは、生まれてから年月が経っても、ほぼ変わらない。だから、お客様の骨格をまず見て、その人らしい体を判断していきます。当店のスタッフは全員、お客様の体に1秒ふれるだけで、サイズを判断することができますよ。よく「いつ測ったんですか!?」って言われるんですけどね(笑)。
――リュー・ドゥ・リューのブラジャーの、ほかのメーカーとの一番の違いは何でしょうか?
龍: 当店のブラジャーは、姿勢をぐっと起こす設計になっています。姿勢が起きることによって腹筋が緊張し、その緊張が背中に伝わって、広背筋が収縮します。その収縮が、今度はお尻にある大殿筋に伝わっていく。人間の体は、腹筋、広背筋、大殿筋っていう、大きな筋肉が連動するようにできているんです。姿勢が起きると、家事や仕事など日常生活の中で、自然と筋肉を使っていけるようになります。そうすると、ウエスト回りが細くなるなど、目に見えて体が変化します。
――子育てにも仕事にも忙しい30代から50代の女性の中には、「正直、自分の下着にまで構っていられない!」という人も多そうです。ちょっと形崩れしていてもいいやとか、服に隠れてしまうからデザインにこだわらなくていいやとか...。そういう人でも「これだけはやっておきたい」ことはありますか?
龍: 無理はしなくていいというのが、私の意見です。人生の中で、子育てにたいへんな時期は、それほど長いわけではありません。だからその時期は、「あれもこれも、きちんとしなきゃ」という考えを手放してもいいと思います。ただ、できれば、授乳期であっても妊娠中であっても、サイズの合わないブラジャーは着けないほうがいいですね。
授乳期は乳腺が張り、胸の丸みを作っているデコルテ部分の脂肪を押しのけます。その脂肪は、脇の後ろまで流れていくんですね。断乳の後、乳腺はしぼみますが、押しのけられた脂肪は戻って来られず、脇の後ろにとどまり続けます。これを放っておくと、断乳後に「胸がなくなっちゃった」ということになってしまいます。逆にいえば、サイズの合うブラジャーをして、脇の後ろの脂肪を元に戻せば、すごくきれいな胸に仕上がります。断乳直後は、胸を改革するためのチャンスの時期でもあるんですよ。
――そう考えると、忙しい時期も、ブラジャーを選ぶのが楽しくなりそうです。最後に、龍さんご自身が、自分を「愛おしむ」ために行っていることを教えてください。
龍: やっぱり、好きな下着を着けることです。好きな下着を着けることによって、気持ちも上向きになります。わくわくする下着を着けるのは、私にとって一番のご褒美ですね。
<プロフィール>
龍多美子(りゅうたみこ)
1957年生まれ。東京都出身。高校時代から下着の魅力に惹かれ、18歳のときにランジェリーショップでアルバイトを始める。1982年に独立し、代官山にリュー・ドゥ・リューを開業。的確なサイズ判断とカウンセリングで、オープン以来70,000人以上の女性たちの体と意識の変革に寄り添い続け、全国にファンを持つ。現在は吉祥寺本店のほか、全国11都市で定期的な販売会を開催している。新規の下着専門店のコンサルティングや、下着業界の人材育成のための講座「龍美術」を運営するかたわら、各種セミナーなどで下着を通した女性の自己実現を説く、業界のオピニオンリーダー的存在。
(取材・文:佐藤由衣/写真:mika)
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