「無駄に我慢をしないことが、40代には必要」雁須磨子さんが漫画を通して伝えたいメッセージ
いつも体のどこかに疲れを感じている。ふとした瞬間に不安になる、親のこと、お金のこと、これからの人生のこと...。20代ほどがむしゃらじゃない、30代ほどノリノリじゃない。40代で直面する、心と体の変わり目――
外見の変化や体力の低下、さらには気持ちの面でも不安定になるなど、40代に入ってこれまでとは明らかに違う感覚を覚え始める女性も多いはず。漫画「あした死ぬには、」(太田出版)の著者である雁須磨子さんも、まさに同じような経験をされた一人です。雁さんご自身の経験を基に、40代を自分らしく過ごすコツをお伺いしました。
不整脈に四十肩、落ちない脂肪...40歳になって次々現れる体の不調
――雁さんの新刊「あした死ぬには、」には、映画宣伝会社で忙しく働く主人公・本奈多子のほか、さまざまな境遇の40代の女性キャラクターが登場します。本作は、彼女たちと同世代の女性から多くの共感を集めていますが、雁さんが「40代」に焦点をあてた作品を描こうと思ったのは、何がきっかけだったのでしょうか。
雁須磨子さん(以下、雁):40代になりたてのころ、夜中に不整脈に襲われたことがあったんです。胸が苦しくなって、汗はかいているけど体は冷たくて。そのときは、「これ、死んでもおかしくないかも...」みたいな気持ちになりましたね。私は元々、自分と同じ世代の人に向けた作品を描くのが好きだったこともあり、これも漫画にしたらいいんじゃないかと思いました。それと同時に「みんなはどうなの?」って、問いかけたい気持ちもあったんです。
――ちなみに、不整脈に襲われた後はどうされたんですか?
雁:そのときは「私、死ぬのかな...」って思いながら寝たんですけど、翌朝起きられたので、特に何も対処はせず(苦笑)。もう1回不整脈に襲われたら病院に行こうと思っていたんですけど、幸い2回目はないまま今に至ります。
――当時の生活状況は?
雁:不摂生でしたね。忙しくしていたので、寝る時間もまちまちでした。根が体育会気質なものですから、ちょっと無理をしてもがんばろうという気持ちで過ごしていたんです。ただ、その数年後には、無理もきかなくなってきて...。1つピースが欠けると全部が崩れる、みたいなことを実感しています。
――40代になってから不整脈以外に、どのような不調や変化を感じましたか?
雁:私の場合は、四十肩がひどかったですね。今はだいぶ良くなりましたが、初めて四十肩になったときは「こんなに痛いの!?」ってびっくりしました。四十肩の痛みは、病院で注射を打てば一発で治るらしいんです。無駄に我慢をしないことも、40代には必要かもしれません。まだ行けていませんが、私も近々、注射を打ちに行こうと思っています。
それから、40歳になった途端に、すごく太りました。しかも、40代は太るだけでなく、やせなくなるんです。体のラインが見えない服にばかり目が向くようになり「私はファッションに興味がありません」って、おしゃれをあきらめていた時期もありましたね。でも、今はまた「やっぱり着たい物を着たい」と思うようになりました。
体の不調だけでなく、気持ちも揺れる40代
――「あした死ぬには、」の中には、40代の体の不調だけでなく、心の変化や気持ちが揺れる様子も描かれています。特に、多子の同級生の塔子が、パート先の飲食店でお客さんから「オバチャン」と呼ばれてショックを受けるというシーンが印象的でした。こうしたシーンを盛り込もうと思ったのはなぜですか?
雁:体の不調だけでなく、気持ちの面でも複雑な感情を抱き始めるのが40代なのかなって思うんです。私もそうですが、まず「更年期」って言われるのが嫌というか。芸能人でも、「更年期でした」と公表されるのは50代以上の方が多いですよね。おそらく、更年期まっただ中のときは、なかなか認めることができないんじゃないかと思います。
一方で、外見の変化は目に見えてわかる。例えば、お肉が下がってきて、もう元には戻らないことを知るのも40代だったりします。気付いているんだけど認めたくなかったり、若く見られることをあきらめきれない自分に落ち込んだり...。それをあっけらかんと話せればいいんですけど、ほとんどの人は隠してしまうんですよね。そういった、「本当は感じているけれど、外に向かって積極的には言わないこと」も描いていければいいなと思いました。
――雁さんも、気持ちが不安定になったり、それを人に話せなかったりすることがありますか?
雁:私は元々、感情の振り幅が狭くて、ものすごく落ちるという状態を体験したことがないんです。もちろん、気持ちが落ちるときもあるんですけど、周りの人と比べるとそこまでじゃない。「自分の悩みなんてほかの人に比べて小さい」と思って、以前はつらいと感じても人に話せなかったんです。
でも最近は、そこは"当社比"でいいんじゃないかと思っていて。「今、けっこうつらいんだよね」って言うようにしてみたら、意外と聞いてもらえたんですよね。
40代の女性は「こんなこと言っても聞いてもらえないだろう」って決め込むのではなく、どんどん口にしてみたほうがいいと思います。「これって、人に言っていいのかな?」と思うようなことが、次々起こるのが40代なので。
――そういったことを雁さんが漫画に描いてくださることで、「自分だけじゃない」と思える読者も多そうですね。
雁:40代の女性は、働いている方でも、専業主婦の方でも、がんばることをやめられない方が多いと思うんです。「体も心もしんどいけれど、動けないほどではない」ってがんばってしまうんですよ。でも本当は、病気になる前に、グッと足に力を入れて立ち止まったほうがいい。ちょっと不調を感じたら、止まってもいいんだよって、漫画を通して伝えられたらいいですね。
自分が楽しいと思える選択を心掛ける
――40代になって不調を感じ始めたとき、ご自身で気を付けるようにしたことはありますか?
雁:仕事を減らしました。30代のころは、すごく根を詰めて仕事をしていたんです。当時は、家からそう遠くない場所へ出掛けることにも罪悪感を覚えていました。ちょっと出掛けたからといって、ものすごく仕事が滞るわけでもないのに、友達との約束も断っていましたね。
――タスクが終わらないことに対する罪悪感...わかる気がします。
雁:当時は真面目だったのかもしれません(笑)。でも最近は、出掛けてもいいやと思うようになりました。仕事を理由におろそかにしていた実家への帰省も、「もう帰っちゃおう!」って。どんな状況であっても、楽しいと思える選択をすることが大切だと思うようになりました。それと、今年に入ってからウォーキングを始めました。
――ウォーキングを始めたのは、何かきっかけがあったんですか?
雁:昨年の秋頃に、気管支炎から肺炎になり、最終的にはノロウイルスに感染しまして...。今年の春まで、立て続けに病気に見舞われたんです。ウォーキングを始めたのは、少しでも体力づくりをしなきゃという思いからですね。
いざ始めてみると、1日1時間歩くだけでも気持ちが前向きになるし、外に出ると自然といろいろな物が目に入ります。放っておくと一日中家にいて、見ている景色が変わらない生活をしているので、外に出て刺激を受けられるのはいいですね(笑)。
とはいえ、目的がなければ歩かない性格なので、歩数をポイントに換算し、それによって景品がもらえるアプリを利用しています。自分が楽しいと思うことが、続けるためのコツです。
――最後に、漫画を通して、今後どのようなことを伝えていきたいかお聞かせください。
雁:社会のしくみとか、40代になってもわからないことって、結構多いんですよ。万一、親が倒れたときに「救急車を呼んでいいのか」とか「やって来た救急車に自分も付き添って乗っていいのか」とか、直面して初めて悩むこともあると思います。みんなわからないなりに対応して、その都度、周りに頼って切り抜けていると思うんです。
そういう風に「わからなくてもいい」っていうことを、漫画でも描けたらいいですね。できないことや知らないことがあったとしても、「それが普通だよ」って。漫画を読んでいただいた方に、「私といっしょだ。大丈夫じゃん」って、少しでも安心していただけたらうれしいと思います。
雁須磨子(かり・すまこ)
福岡県出身。1994年に「SWAYIN' IN THE AIR」(蘭丸/太田出版)にてデビュー。BLから青年誌、女性誌まで幅広く活躍し、読者の熱い支持を集め続けている。2006年に「ファミリーレストラン」(太田出版)が映像化。「幾百星霜」(太田出版)、「どいつもこいつも」(白泉社)、「つなぐと星座になるように」「感覚・ソーダファウンテン」(講談社)、「湯気と誘惑のバカンス」(祥伝社)など、著書多数。最新作「うそつきあくま」(祥伝社)が好評発売中。
あした死ぬには、
著:雁須磨子/定価:1,200円+税
http://www.ohtabooks.com/publish/2019/06/12000000.html
太田出版のウェブサイト「Ohta Web Comic」にて最新話公開中
http://webcomic.ohtabooks.com/ashita/
(取材・文:片貝久美子)
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