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Ayakoさんに聞く、バセドウ病を通して学んだ、治療への向き合い方とサポートの重要性【後編(全2回)】

どのような病気でも、罹患すると気持ちが落ち込んでしまうものです。
治療が長期間にわたる場合、ご自身のモチベーションを維持することは簡単ではありません。

どのような病気でも、罹患すると気持ちが落ち込んでしまうものです。
治療が長期間にわたる場合、ご自身のモチベーションを維持することは簡単ではありません。

今回は、バセドウ病の治療に現在も取り組まれているAyakoさんに、長期間の治療に対してモチベーションを保つ方法や、病気と向き合いながらポジティブに生活する方法をお伺いしましたので、ぜひご一読ください。

自分に降りかかる悪いことは、ラッキーチャンスに置き換える

――バセドウ病をはじめとして、治療が長期にわたる病気はたくさんあります。治療のモチベーションを維持するために、Ayakoさんが取り組まれていたことはありますか?

Ayakoさん(以下、Ayako):いくつかありますが、一番実践していたのは、気持ちが沈みそうなときに"病気のせい"にすることです。

治療と向き合うなかで「どうして自分だけ......」と、気持ちが暗くなったり、不安定になったりすることは誰しもあると思います。でも、自分が何か悪いことをしたせいで病気にかかったわけではないですよね。

そこで私は「いま自分がネガティブな気持ちになっているのは、病気のせいだ」と考えるようにしていました。そのうえで、自分を客観視して「この経験を通じて、成長できることはなんだろう」と自問自答することもありました。

病気に罹患すると、ネガティブな気持ちに陥りやすくなるものですが、「この試練は、なぜ自分に与えられているんだろう?」と前向きに捉えてみてください。すると、試練を乗り越えるために必要なことを考えられるようになって、「これは何かを得られるチャンスだ」と思えるときがくるはずです。


こうした考え方ができるようになるためには、自分を盛大に甘やかしてあげることも大切です。たとえば、つらいことがあって涙が止まらない......。そんなときは「私は今不幸なんだから、仕方ない。泣いたっていいじゃない」と、自分を否定せずに受け止めてあげてください。甘やかすだけ甘やかして、落ち込むときはとにかく落ち込む。そこから割り切って「じゃあ、次はどうしようか」と考えられると、たとえつらいことがあっても治療のモチベーションは保てるようになると思います。

素直な気持ちで、逆境を自身の成長につなげる

――お話を聞いている限り、Ayakoさんはとてもポジティブ思考かと思うのですが、そのポジティブ思考を維持するために、どのようなことを意識しているのでしょうか?

Ayako:"なるべく素直でいること"を心がけています。まわりの人の声を素直に聞く姿勢でいると、相手も正直な意見を伝えてくれると思っているからです。

そんなときに「昔と比べて、今の私ってどうかな?」と、さらけ出して聞いてみると「ちょっと前より良くなったよ!」といったふうに、本心から答えてくれるんです。そういった機会を増やすことで、「じゃあ、もうちょっと頑張ってみよう」という前向きな気持ちを維持できるのかなと考えています。

自分のポジティブな気持ちを保つためにも、まわりの人の声を聞いて、自分の気持ちに反映させるといったことは繰り返していました。

違和感に気づくポイントは、普段から自分の状態を把握しておくこと

――バセドウ病をきっかけに、気づかれたことがたくさんあると思います。これまでの経験をもとに、ILACY読者に向けて健康管理や気持ちの向き合い方など、何かアドバイスはありますか?

Ayako:まず、普段の自分の状態をきちんと知っておくことです。普段の状態を把握していれば、手の震えや甲状腺の腫れをはじめとする、自分の体の小さな違和感に気づいて、すぐに対処することができるはずです。

あとは、ありきたりかもしれませんが、食事に気を配ることも大切です。私自身、病気になる前は食事をないがしろにしがちでしたが、治療を通して栄養価の高い食事の重要さを実感しました。

食事と同様に、運動も欠かせません。運動を取り入れて体を健康的な状態に近づけることで、バセドウ病以外の異変が起きたときに「あれ?おかしいな?」と感じることができます。普段が健康に近い状態でないと、不調になった原因がバセドウ病なのか他の病気なのか、なかなか特定できないので、健康に近い状態をキープするために運動は続けていきたいです。
最後に、少しでも「おかしいな」と思うことがあったら、後回しにせずに病院に行くことを心がけていただきたいです。「忙しいから」「疲れたから」と、理由をつけて後回しにすることが命取りになることもあります。自分の状態にアンテナを張って、多少の違和感でもすぐに病院に行っていただきたいと思います。

病気を通じて明確になった目標と、バセドウ病・PICSへの取り組み

――Ayakoさんは、現在薬剤師として働きながら個人でも活動をされていますが、ECLE beige(エクルベージュ)を立ち上げることになったきっかけや、現在の活動内容をお聞かせください。

Ayako:もともと起業したいとは思っていたのですが、やるべきことが見つからない状態でした。ですが、病気を経験したことで、これまで自分に降りかかっていた試練は、やりたいことを明確にするためだったんだなと、今はポジティブに捉えられています。

やるべきことが明確になったあとは行動に移すしかないので、「変化の先に"笑顔"を」というコンセプトのもと、『ECLE beige(エクルベージュ)』を立ち上げました。

現在は、バセドウ病とPICS(集中治療後症候群)の啓蒙活動を主軸としています。バセドウ病に関して出版した『踏んだり蹴ったりな幸せ者』は多くの方に手に取ってもらい、さまざまな感想をいただきました。病気のことを誰にも言えずに苦しんでいる方に、本書を通して少しでも元気を届けられるといいなと思っています。

また、バセドウ病とは別に、PICSについての啓蒙活動やサービス提供にも力を入れていきたいと考えています。集中治療室に入室中、あるいは入室後に、精神・認知・身体障害を起こすことの総称を"PICS"と呼ぶのですが、言葉はもちろんその症状もまだまだ認知されていません。患者さん本人だけでなく、ご家族の精神状態にも影響があるもので、実際に私の祖母がPICSを起こし、私も精神的に苦しい思いを経験したことがあります。とてもつらい症状にもかかわらず、医療関係者にすら広く知られていないのが現状なので、PICSについての啓蒙活動も随時進めていきたいですね。現在は、InstagramやnoteといったSNSを通じた情報発信が中心となっており、今後の具体的な活動内容についての企画を検討中です。

――今後は、どのような活動を進めていく予定なのでしょうか?

Ayako:まずは、PICS(集中治療後症候群)の認知活動をしっかり行っていきたいです。

研究もなかなか進まず、健康保険の適用外のため、PICSを認知していただいたとしても「じゃあ、どうしたらいいの?」と困ってしまう患者さんが多く出てくると考えています。そういった方に向けて、手の届きやすいサービスを生み出していくことが今後の目標です。

ECLE beigeのコンセプトである「変化の先に"笑顔"を」につながる活動をこれからも広げていきたいと思っています。

"踏んだり蹴ったり"を乗り越えた自身の経験が、誰かのためになる

――ECLE beigeを立ち上げてからの活動に対して、達成感や満足度は得られていますか?

Ayako:正直なところ、達成感はまったくありません。

ただ、自分の経験を形にした著書『踏んだり蹴ったりな幸せ者』を通して、さまざまな反響をいただけたことはうれしく思っています。約10年ぶりに連絡をくれた方がいたり、同世代の方から「前向きになれた」「心が救われた」という声をもらえたりして、出版してよかったですし、本当にありがたい限りです。

踏んだり蹴ったりな出来事をいくつも経験してきましたが、色んな方の助けになっているのであれば、バセドウ病に罹患したことも「もはやウェルカムだったのかな?」とすら本気で思います。自分の人生が誰かのためになっているんだなと実感できます。

今はいろいろなことにチャレンジしている最中で、まだまだ道半ばの状況です。特にPICSについてはほとんど形にできていないので、しっかりと地に足をつけた状態で、一歩ずつ進めていきたいなと考えています。

思い切って踏み出した一歩が、未来を拓くきっかけとなる

――病気に悩む方や治療に不安を抱える方は、多くいらっしゃるかと思います。そのような方々に向けて、Ayakoさんからメッセージをお願いいたします。

Ayako:一番に伝えたいのは"あなたは一人ではない"ということです。ご自身と同じ境遇にいる仲間は必ずどこかにいます。自分から気持ちを打ち明けることで、はじめて見つけられる仲間もいると思います。相手やタイミングも大事ですが、思い切って一歩を踏み出してみましょう。私はそうやって仲間を見つけることができたので、「一緒に前を向いて頑張ろう」という気持ちをお伝えしたいです。

仮に仲間が見つからなくても、病気がなかなか回復しなかったとしても、その状況から得られるものもあるはずです。私の場合、首や目は元の状態には戻りません。今も薬は飲みつづけていますが、食事や運動などに気を配ったことで、病気にかかる前よりも健康的になった気がしています。病気になったことで失うものもあるかもしれませんが、そのぶん得られるものがありますし、得られるまで探しつづけることが大切だと思います。

進み続ける先に見える、新しい自分の可能性

今回は、治療への向き合い方や考え方、そしてAyakoさんの活動内容について伺いました。

病気に罹患すると、ポジティブな気持ちを維持することは難しいかもしれませんが、考え方を少し変えることで、さらなる成長へとつなげることはできるはずです。
治療へのモチベーションを保ち、有意義な日々を過ごすためにも、自分の気持ちに向き合う時間を作ってみてください。

本インタビューの前編では、バセドウ病の発症と治療の軌跡、治療を通じて得られたことをAyakoさんに伺いました。現在も治療に前向きに取り組まれているAyakoさんだからこそお話しいただける内容となっているので、ぜひご覧ください。
Ayakoさんに聞く、バセドウ病を通して学んだ、治療への向き合い方とサポートの重要性【前編(全2回)】

(取材・文:金澤優理)


profile

Ayako

Ayako(薬剤師)

医療業界で働きながら、PICS(集中治療後症候群)に関する学会発表や論文執筆にも取り組む。PICSの認知を広めるために、2024年にECLE beigeを起業。『踏んだり蹴ったりな幸せ者』の執筆や、PICSの啓蒙活動などを展開している。

Instagram:
https://www.instagram.com/ecle.beige/
note:
https://note.com/eclebeige
amazon:
https://amzn.asia/d/8MHWIn2

※掲載している情報は、記事公開時点のものです。
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