親に優しくしたいけど、できなくてつらい。どうしたらいい?
更年期以降になると、自身の身体面・心理面で変化が現れるとともに、親も高齢になり、衰えていく様子を目の当たりすることも増えていきます。老いは誰しも平等に訪れるものですが、自分の親のことになると、その現実をうまく受け入れられない人も少なくありません。
中には、親の体を心配していろいろアドバイスをしても、思いどおりに聞いてもらえずつらくあたってしまい、自分を責めてしまう人も...。
親に優しくしたいと思っているのに、いざ親を前にするとなぜそうできないのか、そんな状況を変えるにはどうすればいいのか、心理カウンセラーの半澤久恵さんに伺いました。
優しくできないのには、何らかの理由がある
――親の老いに気付くと、なんともいえない気持ちになりますね。
誰でも年齢を重ねれば衰えていくのは当然なのですが、若い頃、元気な頃のイメージが鮮明に残っている親の衰えは、なかなか受け止めにくいですね。
気持ちに折り合いがつけられず、親のことが心配で声をかけているのに、聞く耳を持ってもらえなかったり、思ったように動いてくれなかったりすると、きつい口調になってしまうことに悩む人は多くいます。
――老いるのは仕方がないと頭ではわかっていて、きっと誰もが優しくしたいと思っているはずですよね。どうして、気持ちと行動が一致しないのでしょう。
本当の気持ちと反する行動をとってしまう背景には、2つの理由があります。
親に対する心配や不安が、優しくしたい気持ちを上回る
1つ目の理由は、親の老いに直面したときに生まれる不安や焦り、寂しさといった感情が、優しくしたい気持ちを上回ってしまうから。
<親の老いに直面したときに生まれる感情>
・めっきり体力が落ちてしまって、ちゃんと生活を送れるのか心配
・心身ともに弱っていて、漠然と未来が心もとない
・どんどん衰えていってしまうことが不安
・強くて頼りがいがあった親はもういないと感じて寂しい
・これ以上できないことが増えたら...と想像すると焦る
親の様子を見て、こうした感情が刺激されると、つい強い言葉で叱ったり、一方的に怒りをぶつけてしまったりすることがあります。これは、自身で気づいていない不安や心配、怒りが自分の中にあることを意味しているんです。
また、遠方に住んでいてなかなか会いに行けない人や、兄弟・姉妹に親の世話を頼んでいる人などは、思うように親のケアができないことに対する後ろめたさが、ネガティブな感情に拍車をかけることもあるでしょう。
嫌な記憶が呼び起こされ、ストレスが増大する
2つ目の理由は、「親のために自由を奪われている」と感じることで、自分の中にある嫌な記憶が表出して、ストレスが増大するからです。
親に限らず、誰かをケアすることには心身の負担が伴います。その上、良かれと思って言っているのにまったく言うことを聞いてくれないといった不満が重なれば、ストレスは増幅するでしょう。
すると、「やらされている感じ」「自由を奪われている感じ」が強くなり、それがトリガーになって過去の記憶と結び付くことがあります。
<呼び起こされる嫌な記憶>
・小さい頃から、いつも親の言いなりだった
・面倒なことを押し付けられてばかりいた
・私がどんなに主張しても、親は聞いてくれなかった
いわば、トラウマのようなつらい記憶が呼び起こされることで、次第に親との関わりがプレッシャーになり、優しくしたくてもできなくなってしまうのです。
■親に優しくできない...その根底にある気持ち
親に優しくできない根底には「愛情」がある
――親に優しくできない気持ちを克服するには、どうすればいいのでしょうか。
「親に対して声を荒げてしまった」「ケンカになってしまった」といった事実だけでなく、優しくできない自分を責めて落ち込む人が多い印象です。
イラッとしてしまうのには必ず理由があるはず。親と接しているときの心の声に耳を傾けてみましょう。次第に、「年老いた親を責めている怖い自分」ではなく「親を思い、その未来を心配して不安になっている自分」が見えてくるはずです。
大好きだから、幸せでいてほしい。
大切だから、元気でいてほしい。
無意識の態度の裏にある気持ちに気付くことができると、むやみに自分を責めなくなりますし、親への接し方そのものも変わってくると思います。
――根底にある親への愛情に気付くことが大切なのですね。
例えば、今まで親の食生活を見るたびに「もっとバランス良く食べなよ!」と怒っていたとしましょう。その怒りが親の健康を願うからこそのものだとわかったら、「自炊は脳トレにもなるみたいだよ」「おいしい物を食べると元気になるよね」と、ポジティブな声のかけ方ができそうな気がしませんか?
怒りは、本当に大切にしていることに気付くチャンス。怒りを感じたら、そこにもう一人の自分を立てて、「本当はどうしたいの?」と心の奥に呼びかけてみてください。
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親も一人の人間。「境界線」を大切にして気持ちを楽に
――心配のあまり伝えたアドバイスに対して、親がそれを拒んだとき、どこまで踏み込むべきかも悩み所です。
こちらが良かれと思ってアドバイスしても、人によって大事にしていることや心地良いと感じていることが異なる以上、素直に受け入れてもらえるとは限りませんよね。
そこで、ひとつ心掛けてほしいのが、境界線を引くこと。「こうしたらいいんじゃない?」と伝えたことを実践するかどうかは親次第。親子であっても別の人間ですから、こちらの考え方を押し付けないようにしましょう。
目的と境界線がはっきりしていれば、親の行動に対して必要以上にがっかりしないで済むと思いますよ。
――自分とは別の人間であることを意識すると、かなり気持ちが楽になりそうですね。
そういう意味では、親に向けた提案が自分の負担にならないことも重要です。「お父さん、お母さんのために」と自分が無理しないとできない提案をしていると、「こんなにやってあげているのに」「もっと感謝してくれてもいいのに」と感じて、だんだん苦しくなってしまうでしょう。
親の反応に期待しすぎず、無理のない範囲でやれることをやるのが大切。そう考えると、自分を追い込まずに老いていく親とうまく付き合っていけると思いますよ。
お話を伺ったのは...
半澤久恵(はんざわ・ひさえ)さん
心理カウンセラー/セラピスト
大学卒業後、出版社へ入社。体調を崩したことをきっかけに、興味のあった心と体に関わる仕事をするため、アロマセラピーの道へ。サロンでセラピストとして働きながら、整体やアロマスクールの講師も務める。2012年にOAD心理セラピストの資格を取得。現在は自身のサロン「AROHAM」にて心と体にまつわる個人セッションを行うほか、心理学の講師としてセミナーなども開催している。
https://www.aroham-kee.com/