記憶力の低下は年齢ではなく情報過多が原因?改善の肝は「脳の休息」

昨日教えてもらったことが思い出せない、新しい仕事を覚えられない――更年期世代にはこうした記憶力の低下、理解力の鈍化に悩む人が増えているといいます。「年のせい?」「それとも認知症が始まっているの?」と不安になるかもしれませんが、それはいずれでもなく「脳の疲れ」が原因であることがほとんど。

働きが鈍っているときの脳はどのような状態にあるのか、どうすれば低下した記憶力や理解力を改善できるのかについて、心理カウンセラーの半澤久恵さんに伺いました。

ILACY_1012.jpg

情報過多社会が脳の疲れを加速させ、記憶力が鈍る原因に

――認知症が始まっているかもと不安になるほど、記憶力や判断力、理解力などの低下に悩む人が増えていると聞きました。どうしてこうした症状が起きるのでしょう。

現代社会は、脳に入ってくる情報が多すぎて"栄養過多"になり、"消化"しきれない情報がたくさん蓄積されてしまうのが大きな原因です。

ちょっと極端な話ですが、江戸時代の生活を思い浮かべてみてください。昔の友人に連絡をとろうと思ったら、手紙をしたためて飛脚に託し、返事を待つあいだに数日は経過しますよね。情報を得る方法も瓦版(かわらばん)や噂話といった、非常に限定的なものです。

一方、現代はどうでしょうか。いつも持ち歩いているスマホで、どんなに遠方にいる人ともリアルタイムで連絡をとることができます。さらに、TwitterやLINEといったソーシャルメディア経由で入ってくる情報も多岐にわたり、その量も莫大です。

――確かに現代は、処理しきれないほど大量の情報にあふれていますよね。

ただ、江戸時代と現代の人間とでは、体のしくみも、人間の持つ情報処理能力も大きく変わってはいません。それにもかかわらず、インプットされる情報の量と、情報を得るまでの速度だけが急激に変化したために、脳がオーバーワークぎみになってしまうんです。

――勝手に入ってくる情報も多いですが、自分から取りにいってしまう情報も多い気がします。

インターネットが普及して、何でもすぐに調べられますし、流れてくる情報も増えたので、ついつい見てしまいますよね。コロナ禍で社会的にも経済的にも、家庭内でもストレスの多い時期を過ごしているので、何が正しいのか知りたくて、情報を深掘りしてしまうことがよくあるでしょう。

こういった、「情報を検索する」「正解を探す」などの行動のベースにあるのが、「好きなアイドルのことをもっと知りたい!」といったポジティブな感情ならいいのですが、恐怖や緊張、警戒といったネガティブな感情のときは要注意

脳の扁桃体(へんとうたい)と呼ばれる部分が刺激されて、体内のモードが不安に紐付いてしまい、脳の疲れが加速します。

ILACY-ill1_1012.jpg

マインドフルネス状態を作り、情報を遮断することが大切

――できるだけ情報から自分を切り離すようにして脳を休められれば、記憶力や理解力の回復につながりますか?

一定期間、情報をシャットアウトするのはいいことです。

ただ、それだけでは脳を休ませることはできません。なぜなら、脳は眠っているときのように外部の情報と接していなくても休まず働き続けていて、知らず知らずのうちに疲労を溜め込んでいるからです。

――なるほど...確かに、スマホを置いてぼんやりしている時間も、とめどなく思考が浮かんでは消えて、脳を使っている気がします。

自分では何も考えずにぼーっとしているつもりでも、頭の中ではとりとめのないこと、考えても仕方ないことが次々に浮かんで、思考はずっと動き続けていますよね。

これは、脳の働きからみると「デフォルトモードネットワークが活性化した状態」といいます。

デフォルトモードネットワークとは、意識的に活動していないとき、ぼーっとしているときの脳の働きのこと。「脳のアイドリング状態」とも呼ばれていて、ちょうど良いモードに保たれているときは脳内の情報がすっきり整理されていますが、活性化しすぎているときは脳が激しく動いています。

休んでいるようでまったく休んでいない脳。そのため、デフォルトモードネットワークが活性化した状態を減らし、情報過多の状態から距離を置くことが、脳の疲労を軽減する上でとても大切です。

――具体的には、どのようにすればいいのでしょう。

過去や未来に向けた雑念を取り払って「今」に集中するマインドフルネス状態を作るのがおすすめです。

すぐにできる方法を2つご紹介しましょう。


ゆっくりとした動きを見たり、音を聞いたりする

まずは、水槽に張った水、ろうそくや焚き火の炎など、ゆったりとした動きをするものを見つめてみましょう。実際にそういったものを見られない場合は、動画サイトで公開されているものを見るのでもいいと思います。

ほかには、リラックスできる音楽を聞くのもいいでしょう。ゆったりした雰囲気の音楽がおすすめです。一定のゆったりとした動きや音に集中していると、思考や雑念が自分の中にとどまることなく流れていくので、マインドフルネス状態を作りやすくなります。

pixta_80485916_M-min.jpg

吐く息が長く、深くなるように意識して深呼吸する

また、デフォルトモードネットワークが活性化し、アクティブモードの交感神経が優位になっているとき、人の呼吸は「速く」「浅く」、動きは「硬く」なりがちです。そんなときは、深呼吸が有効。

深呼吸をするときは、吐く息が長く深くなるように意識をすると、リラックスモードの副交感神経を働かせることができますよ。

■マインドフルネスが脳を休めるメカニズム

ILACY-ill2_1012.jpg

<こちらもCHECK>
失敗を引きずる、気分の落ち込みが続く...気持ちをうまく切り替えるには?

――日々忙しく動いていると、こういったことで本当に脳を休められるのか、実感がわくまで時間がかかりませんか?

確かにそうですよね。なので、「簡単にできて、すごくすっきりするはず!」というイメージを一旦脇に置いて、「良さそうだから、ちょっとやってみようかな」くらいの気持ちで取り組んでみてはいかがでしょうか。

マインドフルネスを実践して、少しでも前と変わったところはあったか、小さな変化に目を向けてみます。大きな違いでなくても、少しの違いに気付くことがマインドフルネスの練習になるんですよ。

――すぐに明らかな改善を期待するというより、「これまでとちょっと違うかも」といった体験を積み重ねるのが大切なんですね。

はい。記憶力や理解力が低下して、仕事や日常生活に影響が及ぶのはつらいもの。ストレスや不安感で、気持ちが落ち込むこともあるでしょう。そんなときはまず、悩みを自覚する前の過ごし方を見直してみてください。

仕事が忙しくてたくさん情報を詰め込んでいませんでしたか?

不安や恐怖に駆られながら、情報を集めていませんでしたか?

もし、気持ちに余裕がない、疲労感がある、眠れていないといった状態なら、脳の疲れが原因かもしれません。ぜひ、ご紹介した方法で脳を休めて、いつもの自分を取り戻してくださいね。


お話を伺ったのは...

DSC_5497.jpg

半澤久恵(はんざわ・ひさえ)さん

心理カウンセラー/セラピスト

大学卒業後、出版社へ入社。体調を崩したことをきっかけに、興味のあった心と体に関わる仕事をするため、アロマセラピーの道へ。サロンでセラピストとして働きながら、整体やアロマスクールの講師も務める。2012年にOAD心理セラピストの資格を取得。現在は自身のサロン「AROHAM」にて心と体にまつわる個人セッションを行うほか、心理学の講師としてセミナーなども開催している。
https://www.aroham-kee.com/

※掲載している情報は、記事公開時点のものです。
ヘルスケア
この記事をシェアする

この記事は、働く女性の医療メディア
ILACY(アイラシイ)の提供です。

“おすすめ記事recommended

CATEGORYカテゴリー