更年期のほてりやのぼせ、目の症状におすすめの漢方は?

体がだるい、重い、風邪を引きやすいなど、病気ではないけど日常生活に支障がある症状や、放置していると病気に発展しかねない症状に効果が期待できる漢方。更年期の不定愁訴(ふていしゅうそ)の改善も期待できることから、気になっている更年期世代の人も多いでしょう。
今回からは、これまで解説していただいた漢方の基礎知識と、体質のタイプに合った漢方の見極め方を踏まえ、症状別の漢方の取り入れ方について、漢方・薬膳の専門家である杏仁美友さんに解説していただきます。
まず教えていただくのは、「肝腎陰虚(かんじんいんきょ)」と呼ばれるタイプの、諸症状に効果を発揮する漢方薬です。
まずはご自分の体質タイプをチェックしましょう 【体質タイプ診断】更年期の症状を緩和する漢方を知るには?
ほてりやのぼせ、足腰のだるさが現れる肝腎陰虚
まず、肝腎陰虚とはどのようなタイプを表すのか、前回までの復習を兼ねて教えていただきましょう。
「肝は血を、腎は精をストックする場所で、血や精は互いに補完し合って体を潤す陰を構成しています。そして肝腎陰虚とは、肝と腎の陰が低下している状態を指します」
漢方でいうところの「肝」と「腎」は、その字から一般的にイメージされる肝臓、腎臓の本来の機能のほかに幅広い働きがあるとされ、関連するさまざまな部位や精神面にも影響を及ぼします。
■肝・腎の部位と役割
肝は、自律神経や代謝の調節、解毒、血液のストックといった役割を果たします。気や血の流れを調節し、情緒を安定させる働きもあることから、肝が弱まると生理痛をはじめとする月経異常、イライラ、自律神経失調症などが起こりやすくなります。
一方、人の成長や発育、生殖などをつかさどる腎は、老化の抑制に大きく影響します。そのため、腎が弱まると老化現象が起きて足腰が弱くなったり、白髪が目立つようになったり、記憶力が低下したりします。また、腎には体を温める「陽」の働きと、体を潤す「陰」の働きがともに備わっていて、生命力を蓄える役割を果たしています。
「特に、ホルモン分泌や卵巣機能の働きを担う腎の衰えは、更年期症状を引き起こす大きな原因のひとつです。腎が衰えている状態を『腎虚(じんきょ)』といい、さらに体を潤す機能が低下していると『腎陰虚(じんいんきょ)』になります」
肝と腎は深く結びついているため、腎の機能が落ちて潤いが減ると、肝の機能低下と潤い不足も同時に現れますし、肝を滋養する血液が不足することで、腎に供給する栄養分も損なわれることもあります。どちらにしても、体を冷まして潤す機能が不足する――これが、「肝腎陰虚」です。
肝腎陰虚の代表的な症状とおすすめの漢方
肝腎陰虚の人が自覚しやすい症状は、大きく分けて下記の3つがあります。
・ほてり ・足腰のだるさ ・上半身がのぼせて汗をかきやすい
「肝腎陰虚は、前回ご紹介した体質タイプでいうとEの陰虚に属します。汗、鼻水、涙などの体液や分泌液である『水』が不足しているタイプですね。全身の細胞や組織に潤いを届けることができないので、体の中に熱が溜まり、ほてりやのぼせ、口や喉の渇きといった症状が現れやすくなります。また、足腰のだるさは、腎の機能低下による老化現象のひとつです。
また、Cタイプの血虚の方も参考にしてください。なぜなら、肝腎陰虚は『(肝の)血虚+(腎の)陰虚』ともいえるからです」
肝と腎を補い、体内の余分な熱や水分を排出する「六味地黄丸」
肝腎陰虚の症状改善が期待できる漢方は、「六味地黄丸(ろくみじおうがん)」です。
漢方は、自然の木や草から取った生薬を、決められた分量で組み合わせることによってできていますが、「六味地黄丸」はその名のとおり、6つの生薬から成る薬です。
■六味地黄丸の構成生薬 ・地黄(じおう)...ゴマノハグサ科ジオウ属植物の根茎 ・山茱萸(さんしゅゆ)...ミズキ科サンシュユの果肉 ・山薬(さんやく)...ヤマノイモ科ナガイモの根茎 ・茯苓(ぶくりょう)...サルノコシカケ科マツホド菌の菌核 ・沢瀉(たくしゃ)...オモダカ科サジオモダカの根茎 ・牡丹皮(ぼたんぴ)...ボタン科ボタンの根の皮
「漢方は絶妙な黄金比からできていて、ただ単に足りない部分を補うだけでなく、多すぎるものを減らしてくれる働きもあるのが特徴。六味地黄丸の場合、地黄、山茱萸、山薬の3つが弱っている肝と腎を補い、茯苓、沢瀉、牡丹皮の3つが体内の余分な熱や水分を排出する働きをします」
眼精疲労など目の症状には「杞菊地黄丸」
さらに、慢性的な眼精疲労や目のかすみ、充血といった目の症状には、六味地黄丸をベースに「枸杞子(くこし)」と「菊花(きくか)」を配合した「杞菊地黄丸(こぎくじおうがん)」もいいのだとか。
「視力の低下や眼精疲労など、目の症状も肝腎陰虚の症状のひとつ。最近はスマートフォンやパソコンで日常的に目を酷使するので、目のトラブルを抱える人は多いようです。
視力の減退や目のかすみを伴う場合や、トラブルの頻度が高くて気になる場合は、六味地黄丸ではなく杞菊地黄丸を選ぶのもいいでしょう。杞菊地黄丸じゃなくても、六味地黄丸にクコの実と菊花をプラスするのもおすすめです。
特に、スーパーの中華食材コーナーなどで手に入るクコの実は、『食べる目薬』ともいわれていて、目の疲れやかすみ目に高い効果を発揮するんですよ。肝や腎の機能を高めることが期待できるほか、老化抑制にも役立つので、積極的に取り入れたいですね。
朝、菊花といっしょにお茶に入れて、ふやかして飲むのも簡単でいいですよ」
六味地黄丸は、ドラッグストアなどでも購入できます。ただし、六味地黄丸が効果を発揮するのは、体力が低下ぎみで、体の中の水分不足によるのぼせやほてりの症状がある人。似たような症状があっても、冷えが気になる人には向いていません。
「漢方の効果は、『更年期の心と体の悩みにも◎「漢方」ってどう使うの?』でもご説明した、その人の体質や、心と体の状態を表す『証』に合った漢方を服用してこそ得られるもの。最初に服用するときは、四診(※)ができる先生に診てもらうか、前回ご紹介したタイプチェックを活用して自分の体質を確かめ、証に合う漢方を選んでください」
※四診(ししん)...漢方独自の診察方法。次の4つをチェックするもの。 ・望診(ぼうしん):第一印象、顔色、舌の状態、精神状態など診る ・聞診(ぶんしん):声の大きさや高低、においなどを耳や鼻で聞く ・問診(もんしん):既往歴や現在の病状などを聞き取る ・切診(せっしん):脈やおなかをさわって状態を確かめる
漢方だけでなく食生活の見直しも重要
肝と腎の機能を補い、体にこもった余分な熱を排出させる六味地黄丸。手足や上半身のほてりやのぼせ、下半身のだるさや衰え、目のトラブルなど、更年期を迎える多くの女性の悩みに対応する漢方薬です。
しかし、それだけですべての不調を根本から取り除くことはできません。
杏仁さんが強調するのは、「普段の食事の重要性」。漢方を選ぶように、症状に合った食材を選ぶことが重要だといいます。
「例えば、今回の肝腎陰虚なら、ご紹介したクコの実や菊花をはじめ、腎機能を高めて水分を補う長芋、熱を冷まして体を潤す豆乳やトマト、保水作用がある白きくらげなどがいいですね。
中でも長芋は、滋養強壮に優れ、疲労回復効果も高い食材です。食材が持つ力や特徴を知り、症状と自分の体質のタイプに合わせて食生活に取り入れていけば、漢方との相乗効果で体の根本的な機能回復を図ることができますよ」
漢方薬の効果をより感じるためには、おすすめの食材を意識的に取り入れることも大切。自分の体質を知り、弱い部分を知ることで、慢性的な不調の解消法を見つけてくださいね。
お話を伺ったのは...
杏仁美友(きょうにん・みゆ)さん
一般社団法人薬膳コンシェルジュ協会代表理事、国際中医師、中医薬膳師、漢方&薬膳アドバイザー。
漢方薬や薬膳で自身の体調不良を改善したことをきっかけに、漢方や薬膳の世界に興味を持ち始める。2011年に薬膳コンシェルジュ協会を設立して、薬膳や薬膳茶の資格講座の運営を行うほか、テレビや雑誌などの取材、レストランのメニュー監修、総合情報サイト「All About」の漢方・薬膳料理ガイド、薬膳サプリの商品開発、講演会なども精力的にこなしている。
「マンガでわかるおうちで簡単! 薬膳・漢方」(池田書店)をはじめ、薬膳にまつわる著書も多数執筆。最新著書は「まいにちの食で体調を整える! プレ更年期の漢方」(つちや書店)。
「まいにちの食で体調を整える! プレ更年期の漢方」(つちや書店) 著:杏仁美友 定価:1,400円(+税)
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