足腰の冷えやだるさ、頻尿...「腎陽虚」を改善しよう

更年期の心身に現れる、さまざまなトラブル。これまで、代表的な症状とその改善に効果的な漢方薬をご紹介してきました。漢方では、更年期症状といわれる不調の根本的な原因は、ホルモンの調節機能や生殖機能を維持する、「腎」機能の衰えにあると考えます。
今回は、腎機能の中でも特に体を温める働きが低下する、「腎陽虚(じんようきょ)」によく見られる症状と、改善に効果的な漢方について、漢方・薬膳の専門家である杏仁美友さんに教えていただきました。
まずはご自分の体質タイプをチェックしましょう
【体質タイプ診断】更年期の症状を緩和する漢方を知るには?
そもそも、腎はどんな役割を担っている?
初めに、腎の機能について紹介しましょう。腎は、おもに次の4つの働きに深く関わっています。
・生殖
・成長
・発育
・老化
かなり幅広い分野をコントロールしていることがわかりますよね。年を重ねて「体のいろんなところにガタがきている」「全体的に衰えた」と感じるのは、加齢による自然現象として腎機能が衰え始めているからだといえるでしょう。
ちなみに、漢方では、女性は7の倍数の年齢で体のサイクルに節目を迎えるとされています。これは、14歳頃に初潮を迎えてから、21歳、28歳、35歳、42歳...と、年齢を重ねるごとに成長や発育を司る腎のエネルギーが弱まっていって、42歳前後から女性ホルモンの分泌が減り始め、個人差はありますが49歳前後に閉経を迎えるという考え方。
42歳、49歳は、ちょうどプレ更年期から更年期にあてはまる年齢ですから、腎にまつわる症状が表面化するわけです。
■7の倍数で変化していく女性の体
腎陽虚ってどんな状態?
腎には、前述したような機能のほかに、大切な2つの役割を果たしています。
・体を温める役割=陽
・体を潤す役割=陰
通常は、陽と陰がうまくバランスをとりながら生命エネルギーを蓄えていますが、陽の働きが落ちた状態が「腎陽虚」、陰の働きが落ちた状態は「腎陰虚」です。
体質タイプ診断でいうと、腎陽虚はHタイプの陽虚が該当しますね。
腎陽虚のおもな症状は、冷えや排尿トラブルなど
腎陽虚は、言葉どおり腎の陽がうまく働かなくなっているので、体を温めることができません。その結果、次のような症状が現れます。
足腰が冷える、だるい
腎陽虚の代表的な症状が足腰の冷え。体の中の熱が不足しているので、特に寒い日でなくても下半身が冷えやすいでしょう。
また、生命エネルギーが不足して体に力が入りにくく、足腰に重さやだるさを感じます。
腰が痛む
冷えが進むと、足腰に痛みが出やすくなります。中でも、腎の居場所という意味の「腎の府」と呼ばれる腰には影響が出やすい傾向があります。年齢とともに腰痛を訴える人が増えていくのは、腰痛が腎の衰えによる老化現象のひとつだからです。
明け方の下痢
健康なときは、起床して朝食をとると腸が動き出しますが、腎陽虚の場合は起きてすぐ、もしくは夜明け前に下痢状の排便が見られることがあります。
これも、腎の冷えによるもの。腎は人間が活動を休止している夜中に働いてエネルギーを蓄えますが、腎陽虚の場合はそれがうまくいかず、冷えてお腹を下してしまうのです。
耳鳴り
実は、耳鳴りも腎陽虚にまつわる症状のひとつ。漢方では、腎は耳とも密接に関係しているとされ、腎の衰えによって「聞こえにくい」「耳鳴りがする」といった症状が現れることがあります。
排尿トラブル
日中の頻尿はもちろん、夜中に何度もトイレに起きてしまう夜間頻尿に悩む人が多いですね。
一方で、余計な水分をうまく排出できず、むくんでしまう人や、残尿感や尿量の減少を訴える人。頻尿になるか、排尿困難になるかは、その人の食生活やタイプによるでしょう。
腎陽虚には「八味地黄丸」と「牛車腎気丸」がおすすめ
腎陽虚は、腎を温める力が不足している状態ですから、漢方も腎を補い、腎陽を高める「補腎」の力があるものを選ぶ必要があります。
八味地黄丸...足腰の冷えや痛みなど腎陽虚改善のベース
「八味地黄丸(はちみじおうがん)」は、8つの生薬からできていて、腎の機能低下を補ってくれる漢方。以前ご紹介した六味地黄丸(ろくみぢおうがん)に、「桂皮(けいひ)」と「附子(ぶし)」の2つを足したもので、六味地黄丸、牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)など、腎を補う補腎薬のベースとなる漢方薬です。
八味地黄丸は、次の8つの生薬から成り立っています。
■八味地黄丸を構成する生薬


八味地黄丸に含まれる桂皮と附子はそれほど多くないので、冷えの症状がひどく、八味地黄丸で補いきれない場合は、より体を温める効果が高い「右帰丸(うきがん)」を試してみましょう。
牛車腎気丸...排尿トラブル症状が強い人に
「牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)」は、八味地黄丸に、利尿の働きがある生薬をさらに2つ加えたもの。「尿が出にくい」「冷えてむくみ、尿が出にくい」といった排尿トラブルの症状が強い場合に効果的です。
■牛車腎気丸を構成する生薬


腎陽虚の症状には体を温めて、生活習慣の見直しを
腎陽虚の症状がある人は、何より体を温めることを考えてください。年間を通じて体を冷やさない服装を心掛けましょう。食生活においても、かぼちゃや羊肉、鶏肉などを積極的にとり、体を中から温めることを意識するのが◎です。
また、湯船にゆっくり浸かったり、運動したりするのもいいですね。激しい運動ではなく、ラジオ体操のような軽いもので構いません。
更年期の症状は、漢方だけで改善できるものではありません。生活習慣の見直しと併せて、不調を改善していきましょう!
お話を伺ったのは...
杏仁美友(きょうにん・みゆ)さん
一般社団法人薬膳コンシェルジュ協会代表理事、国際中医師、中医薬膳師、漢方&薬膳アドバイザー。
漢方薬や薬膳で自身の体調不良を改善したことをきっかけに、漢方や薬膳の世界に興味を持ち始める。2011年に薬膳コンシェルジュ協会を設立して、薬膳や薬膳茶の資格講座の運営を行うほか、テレビや雑誌などの取材、レストランのメニュー監修、総合情報サイト「All About」の漢方・薬膳料理ガイド、薬膳サプリの商品開発、講演会なども精力的にこなしている。
「マンガでわかるおうちで簡単! 薬膳・漢方」(池田書店)をはじめ、薬膳にまつわる著書も多数執筆。最新著書は「まいにちの食で体調を整える! プレ更年期の漢方」(つちや書店)。
「まいにちの食で体調を整える! プレ更年期の漢方」(つちや書店)
著:杏仁美友 定価:1,400円(+税)
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