呼吸は加齢とともに浅くなるといわれています。それは、息を吸って吐くときに使われる筋肉(呼吸筋)が、年齢を重ねるごとに硬くなったり、衰えたりするため。そのままにしていると、「疲れがとれにくい」「肩こりや腰痛が起こりやすい」など、心身の健康に悪影響を及ぼします。
今回は、更年期トータルケアインストラクターの永田京子さんに、更年期世代から呼吸を意識した生活を送ったほうがいい理由と、呼吸筋を鍛えるエクササイズを教えていただきました。
更年期に呼吸が浅くなるのはなぜ?
――呼吸は生きていくために無意識にしていることから、それを意識することは少ない気がします。
呼吸を行う肺は、自動的に動いているのではなく、横隔膜(おうかくまく)や肋間筋(ろっかんきん)といった肺の周りにある「呼吸筋」が動かしているんです。その名のとおり筋肉なので、ほかの部位と同じく加齢に伴って少しずつ衰えていきます。
さらに、筋力は女性ホルモンの減少によっても低下していきますから、更年期世代の女性は呼吸が浅くなりがちといえますね。
■呼吸筋
――呼吸が浅いことが体にどう影響するのでしょうか?
呼吸が浅いということは、血液中の酸素が不足し、全身が酸欠状態になることを意味します。
脳や細胞に酸素が行き渡らないと、
・疲れがとれにくい
・肩こりや腰痛が起こりやすい
・免疫力や集中力が低下する
・自律神経が乱れる
など、さまざまな悪影響を及ぼします。
自律神経が乱れるということは、更年期特有の症状が現れたり、悪化したりすることになりますね。
呼吸を意識することで、更年期症状の緩和も期待できる
――自分の呼吸が浅くなっていることがわかるサインはありますか?
それが、自覚できることはほとんどないんです...。
無自覚のまま呼吸の浅い状態が続き、知らず知らずのうちに呼吸を担う筋力が低下していって、息を吸おうと思ってもたくさん吸い込めなくなっていた...という方が多いのではないでしょうか。
――気付きにくいからこそ、筋力の衰えが顕著になり始める40代から呼吸を意識することが大切なんですね。では、深い呼吸を意識して行うと、症状の改善につながりますか?
改善されると思います。そもそも呼吸は自律神経が司っていて、私たちが無意識に呼吸できるのも自律神経の調整のおかげ。それくらい密接な関係にあるものなので、呼吸がしっかりできていれば自律神経も整います。
更年期症状は、女性ホルモン(エストロゲン)の低下による自律神経の乱れが原因ですから、それが整うことで症状が軽減されると考えられます。
また、更年期は筋力だけでなく、代謝も低下しやすい時期ですが、深い呼吸は全身の血流を良くしてくれます。代謝を促すと同時に、新鮮な酸素と栄養が全身に届くので、各臓器や筋肉の機能が回復したり、体の不調が緩和されたりして、日常生活の快適さも変わってきますよ。
呼吸筋を鍛えるには、腹式呼吸と胸式呼吸が効果的!
ここからは、呼吸筋を鍛える2種類のエクササイズを、永田さんにレクチャーしていただきます。どちらも、ゆっくり吸って吐いてを意識するのがポイントです。
<腹式呼吸で横隔膜を鍛えるエクササイズ>
1. ひざを立てて仰向けに寝て、おなかの上に1〜2kg程度の米や砂糖の袋など、重みを感じる物を置く。
2. 鼻から8秒かけて息を吸い、おなかを膨らませる。
3. 口から8秒かけて息を吐きながら、おなかをへこませる。これを5セット繰り返す。
おなかに重しをのせて、これが上下に動くようにすることで、腹式呼吸のコツがつかめるだけでなく、筋力をより鍛えることができます。腹式呼吸に慣れれば、重しをせず立ったままでもできるようになるので、仕事や家事の合間など気付いたときに行ってください。
<胸式呼吸で肋間筋を鍛えるエクササイズ>
1. 鼻から息を吸いながら、手を組んで両腕を上げる。
2. 口から8秒かけてゆっくりと息を吐き出しながら、上体を正面に向けたまま右に倒す。このとき、左手で右手首を軽く引っ張るようにすると、体側部分がより伸びやすい。
3. 再び8秒かけて息を吸いながら「1」の状態に戻る。同様に反対側も行う。左右それぞれ伸ばすのを1セットとし、5セット行う。
上体を横に倒す際は、腕や体が前方に倒れないようにするのがポイント。上体を倒している「2」でしっかり息を吐ききると、より体側部分が伸びるので効果的です。
さらに、このエクササイズは、ウエスト周りの脂肪燃焼にも有効ですよ。
深い呼吸というと、腹式呼吸のイメージがあるかもしれませんが、肺を大きく膨らませたり、ゆるめたりするには、肺の周りにある肋間筋も重要です。そのため、今回ご紹介したエクササイズも、どちらか一方ではなく両方行い、呼吸筋全体をしっかり鍛えるようにしましょう。
普段から運動や正しい姿勢も意識しよう
――2つのエクササイズを続けると、普段何気なく行っている呼吸も深くなっていきそうですね。
そうですね。日常生活での呼吸が無意識だからこそ、自分が動かせる筋肉の可動域内でしかできていないんです。なので、呼吸筋を鍛えたり、柔軟性を高めたりしておけば、その可動域が広がるので、浅かった呼吸も改善されていきます。
今回ご紹介したエクササイズに加えて、ウォーキングや軽いジョギングといった有酸素運動を行うことも、呼吸筋を鍛えるにはおすすめです。
また、呼吸が浅くなる原因には、姿勢が悪いことも挙げられます。猫背や前かがみの姿勢は肺を圧迫し、深い呼吸がしにくくなるので、普段から正しい姿勢をキープするように心掛けてくださいね。
お話を伺ったのは...
永田京子(ながた・きょうこ)さん
兵庫県出身、愛知県小牧市在住。2児の母。東映アカデミーに所属し、役者として舞台やドラマなどで活躍した後、ピラティスや整体、経絡、アロマ、リフレクソロジーなどを学び、ピラティス指導者、産後ケアのインストラクターとしての活動を開始。受講者の声と、更年期障害が悪化して苦しむ母を見ていた経験から、女性ホルモン・更年期の正しい情報と対策を伝えるNPO法人「ちぇぶら」を創設した。「ちぇぶら」は更年期を英語でいう「the change of life」の意。著書に「女40代の体にミラクルが起こる! ちぇぶら体操」(三笠書房)があるほか、先日「はじめまして更年期」(青春出版社)が発売したばかり。
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「はじめまして更年期」(青春出版社)
著:永田京子 定価:1,540円