便秘や下痢、その両方を繰り返すつらい腹痛の正体
便秘や下痢、またその両方を繰り返す混合型の3種類がある過敏性腸症候群。大腸そのものには病変がないのに便通の異常や腹痛といった症状だけがしつこく続き、電車に乗れなくなったり、仕事に行けなくなったりと、日常生活に支障をきたすこともあるつらい病気です。
精神的ストレスが引き金となって発症するケースが多いといわれていますが、特に更年期の女性の場合、ホルモンバランスが乱れることによる腸の蠕動(ぜんどう)運動(※)の衰えや、体型の変化に伴う腸の動きの制限などによって起きることも珍しくありません。
今回は、過敏性腸症候群の原因と改善策について、東京ミッドタウンクリニックの消化器内科・古川真依子医師に伺いました。
※蠕動(ぜんどう)運動...食道から腸までの消化管の筋肉がリズミカルに収縮すること。それによって食べた物の内容物が消化・吸収され、肛門側に移動していく。
下痢や便秘は、器質的な病気が原因ではないかどうかの見極めが重要
――「便秘や下痢の両方を繰り返す」という症状から考えられる病気には、どのようなものがあるのでしょうか?
便秘や下痢などの便通異常や腹痛といった症状の原因は、明らかな病変が生じる器質的なものと、見た目の異常はないにもかかわらず症状が起きる機能性のものに分けられます。
まずは検査をして、大腸そのものに目に見えてわかる異常がないかを確認することが重要ですね。
器質的な変化が表れる腸の疾患には、大腸ポリープや大腸がんのほか、厚生労働省の指定難病である潰瘍性大腸炎やクローン病といった炎症性腸疾患があります。ただし、大腸がんの場合、進行度にもよりますが「ひどい便秘が長く続く」「下痢が治まらない」というように症状に著しい変化があったり、血便など顕著な症状が同時に現れたりすることが多いので、問診でもある程度は振り分けられると思います。
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――更年期の女性特有の原因はありますか?
更年期は、女性ホルモンの過渡期。おなかの働きは月経周期によっても影響を受けやすいものですが、更年期になるとそれがさらに乱れて、腸の蠕動運動が鈍くなることがあります。
ホルモンバランスの変化によって太りやすくなり、体型が変化して下腹部に皮下脂肪がつくことによって、蠕動運動や排便をする力が弱まることも多いですね。日本人女性は、中年になると洋ナシ型の体型になりがちなので、意識的に運動をして、腹筋を鍛えるといいと思います。
器質的な病変がないときに疑われる過敏性腸症候群
――下痢や便秘を繰り返すときは、どんな検査をすればいいのでしょう。
大腸がんが気になるなら、健康診断や人間ドックにも組み込まれている便潜血検査が一般的です。「便潜血検査では問題ないけど、症状が続く」というときは、初期のポリープの可能性も考えて、大腸内視鏡検査までやっておくと安心ですね。
最近では、大腸を炭酸ガスで膨らませてCTでスキャンする仮想大腸内視鏡(CTコロノグラフィ)も検査の選択肢として浸透しつつあります。いずれにせよ、検査によって器質的な病変を否定することができれば、機能性の障害に原因をしぼることができます。
――機能性の障害だった場合に、考えられる疾患を教えてください。
最も代表的なのは過敏性腸症候群でしょう。何らかの精神的ストレスがかかったときに症状が出るケースが多く、人によって症状の出方は異なります。
大きく分けると便秘が続く、下痢が続く、便秘と下痢を繰り返すという3つのパターンがありますが、下痢が止まった反動で胃が張って便秘になるという人もいるので、明確にタイプを分けるのは難しいですね。
最も多いのは下痢をするタイプで、大事な会議やプレゼンの前など、緊張する場面で下痢をしてしまいます。緊張の度合いやシチュエーションはさまざまで、中にはゴルフのラウンドでドライバーを手にすると症状が出る人や、自分のことではなく子供に関する心配事に直面したときにトイレに駆け込みたくなる人もいます。
緊張をしいられるイベントが終わったり、その場を離れたりすると、スッと症状が消えるのも特徴的ですね。過敏性腸症候群と指摘されて初めて自分と向き合い、ストレスの原因に気付く人も少なくありません。
――過敏性腸症候群の治療法はどのようなものがありますか?
便秘型、下痢型、複合型、いずれも精神的な要素からの影響が大きいので、症状が出るタイミングや出方を問診で確かめ、ストレスの原因を根本から取り除くことが第一の治療法です。
併せて、便秘型の人には腸内細菌を整える整腸剤など、腸の動きそのものに影響を与える薬を使います。下痢型の人の場合、下痢止めはその場しのぎにすぎないので、電車に長く乗らなければならない、大事な会議がある、といった場合にだけ使うことが多いですね。
基本の生活習慣を整え、悩み事を話せる相手を見つける
――便秘や下痢の症状があるとき、望ましい受診のタイミングはありますか?
受診の判断基準は、その状況を不快に思うかどうかです。下痢や便秘といった症状の感じ方には個人差があり、明確な基準がありません。
例えば、普段から便通が2~3日に1度で、それでも出ればすっきりして病気もない場合は、それがその人にとって正常な状態ということです。反対に、便秘が1日でもおなかが苦しくてたまらないなら、やはり受診すべきでしょう。
ちなみに、食道から大腸まではつながっているので、おなかが膨れて食事がうまくとれない、胸やけがするといった症状から、過敏性腸症候群が判明することもあります。電車に乗れない、仕事に行くのが不安など、日常生活に支障をきたしかねない心理的な症状がある場合も、ぜひ受診してください。
――過敏性腸症候群と診断された場合に備えて、アドバイスをいただけますか。
どんな病気にも共通することですが、規則正しく、決まった時間に起きて食べるようにして、基本の生活習慣を整えましょう。精神的な影響が大きい方は、自分だけで悩みや不安を抱え込まず、家族や第三者など、気軽に心配事を話せる人を作ることも大切です。
症状が出そうなときに備えて、何かしら気を紛らわす方法を見つけておくのもいいですね。うまく気をそらすことができるようになると、少しずつ症状への不安が軽くなり、次第に落ち着いていくこともあります。なかなか症状が改善せず、長く付き合う人もいますが、対策があれば安心なのではないでしょうか。
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この記事を監修した人
古川 真依子 (ふるかわ まいこ) 医師
医学博士/日本内科学会 総合内科専門医、日本消化器病学会 消化器病専門医、日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡専門医・指導医、日本消化管学会 胃腸科専門医、日本ヘリコバクター学会 ピロリ菌感染症認定医 、日本カプセル内視鏡学会 カプセル内視鏡認定医、日本人間ドック学会 人間ドック認定医
専門分野:消化器内科・内科
2003年東京女子医科大学卒業
東京女子医科大学附属青山病院消化器内科で医療錬士として関連病院等にて診療にあたり、2008年帰局後は助手として指導にも尽力。2013年より東京ミッドタウンクリニック勤務。胃がん・大腸がん・腫瘍など消化器系の疾患だけでなく、便秘や産後の痔など女性ならではの悩みにも詳しい。