進行すると怖い肝臓の疾患...自覚症状のない病気を見つけるには?
初期はほとんど自覚症状がなく、気付いたときには命を脅かすほど進行していることから、「サイレントキラー」と呼ばれる肝臓の疾患。中高年期の女性に多い「自己免疫性肝炎」はそのひとつで、放置すると肝硬変に移行することもある怖い病気です。
今回は、この自己免疫性肝炎の原因や症状のほか、早期発見につなげるポイントや治療法について、東京ミッドタウンクリニックの消化器内科医師・古川真依子先生に伺いました。
女性に多く、初期の自覚症状はほとんどない
――初めに、自己免疫性肝炎とはどんな病気なのか、概要を教えてください。
自己免疫性肝炎は、体内にある免疫が自分自身の幹細胞を異物と見なして攻撃し、破壊してしまう病気です。発症した人は抗核抗体(※1)という自己抗体が陽性であること、αグロブリン(※2)、とりわけIgGの値が高いこと、副腎皮質ステロイドなどでの治療が有効であることなどから、免疫疾患であると推定されていますが、今もはっきりした原因はわかっていません。
発症後は肝臓に慢性的な炎症が起き、放っておくとゆっくりと進行して肝硬変に至ることもあるので注意が必要です。国の指定難病のひとつであり、中等症以上の自己免疫性肝炎と診断された場合、もしくは肝硬変まで進んだ場合は、医療費助成の対象になります。
※1 抗核抗体(こうかくこうたい)...自己の細胞の中にある細胞核を構成する成分から成る自己抗体の総称。全身性エリテマトーデスなど、一部の膠原病を診断するために検査されることが多い。
※2 αグロブリン...肝臓で作られるたんぱく質。慢性肝炎や肝硬変の進展を疑う指標になる。
――男性と女性、どちらに多い病気なのでしょう。
患者数を男女別に見ると、女性が男性の6〜7倍と圧倒的。明らかに女性に多く見られる疾患です。発症するのは中年期以降の50代から60代の人が中心で、40代以降の更年期世代も少なくありません。まれに、若い女性が発症することもあります。
――どのような症状が現れますか?
自己免疫性肝炎の初期段階では、ほかの肝臓の疾患と同じく、自覚症状がほぼありません。そのため、定期的に受けている人間ドックや健康診断などで、たまたま見つかるケースが大部分を占めています。
全身に倦怠感がある、疲れやすくなった、食欲が減退したといった自覚症状を訴えて受診される患者さんもおられますが、自分で「もしかして自己免疫性肝炎かな」と気付くのはかなり難しいでしょう。
私の患者さんでも、30歳くらいから毎年受けていた人間ドックで「要経過観察」の結果が出たことをきっかけに検査をして、自己免疫性肝炎であることがわかったという人が多くいらっしゃいます。なお、肝硬変や肝不全まで進んでしまうと、下肢のむくみやだるさ、腹水による下腹のふくらみ、発熱、黄疸といった強い症状が出ます。
――では、健診などをきっかけに、肝臓のサインに気付くことが大切なのですね。
そうですね。肝障害を進行させないためには、早期発見・早期治療が望ましいです。血液検査の結果が出たら、肝臓の炎症の進み具合を見るAST(GOT)やALT(GPT)といった数値に注目してください。検査結果が「要経過観察」であっても、前回に比べて数値が上昇していたら放置しないこと。
特に、普段まったくお酒を飲まない人で、肥満傾向でもないのに、これらの数値が「要経過観察」になったら要注意です。すみやかに医療機関を受診して、診察を受けましょう。
また、先程お話ししたとおり、自己免疫性肝炎に明らかな遺伝性はないものの、遺伝的因子は親から子へ受け継がれるので、家族歴がある人は数値に気を配っておくといいと思います。健診を受けたら、毎年の数値の変化をきちんと確認することと、ちょっとした変化を見逃さず放置しないことが大切ですね。
――家族歴がある人は気を配ったほうがいいということは、遺伝も考えられるのでしょうか?
自己免疫性肝炎の発症に直接的に結び付く遺伝子は見つかっていないので、遺伝的な病気ではありません。しかし、日本人の自己免疫性肝炎患者の細胞を調べたところ、全体の6割ほどがHLA-DR4という免疫に関わる分子が陽性だったことから、発症には何らかの遺伝的因子が影響している可能性が高いと考えられています。
完治は難しい。でも服薬で進行を止めることができる
――自己免疫性肝炎は、どのように診断されるのでしょう。
まずは先程お話ししたとおり、血液検査を行ってASTやALTといった肝機能に関わる数値と、自己免疫性肝炎に認められる特徴的な自己抗体の出現の有無、免疫異常の有無などを調べます。関節リウマチなど、ほかの自己免疫疾患を同時に発症している人も多いので、ひとつの目安になりますね。
こうした検査や所見で強く自己免疫性肝炎が疑われたら、肝生検を行います。肝生検は、肝臓に細い針を刺して肝組織を採取し、顕微鏡で詳しく調べるというもの。問診や一般的な採血検査などを経て、薬物やアルコールによる肝障害、脂肪肝、ウイルス性肝炎などの特徴的な変化が見つからず、そのほかの肝疾患の可能性が否定された場合に肝生検を行うことで、自己免疫性肝炎と診断されることになります。
――自己免疫性肝炎と診断されたら、どのような治療を行うのですか。
自己免疫性肝炎は、一度発症してしまうと、残念ながら完治は難しい病気です。治療は、生活への影響を軽減し、進行を抑えるために行います。基本的な治療は、肝細胞を攻撃している免疫の活動を抑制し、肝臓を保護するために、「副腎皮質ステロイド」の内服を行います。
最初は一般的な量を処方し、肝機能の数値を見ながら調整して、適切な量を長期的に服用してもらいます。この薬は、自己免疫性肝炎の症状改善に高い効果を発揮する一方で、感染症にかかりやすくなったり、糖尿病、脂質異常症、骨粗しょう症などのリスクが高まったりする副作用があるため、服用中は定期的に通院して、必要な検査を受けることが大切です。
――薬の量は、少しずつ減らしていけるのでしょうか。
適切な治療を受ければ、肝臓の状態は改善し、症状も落ち着いていきます。進行が見られず、検査値が安定している人は、状態を見ながら薬を減らしていくことができるでしょう。
ただし、薬を中止すると再発する可能性がありますので、自己判断で服薬を止めるのは危険です。必ず医師の指示に従ってください。
――自己免疫性肝炎のリスクが高まる世代に、アドバイスをお願いします。
自己免疫性肝炎は、発見が遅れると肝硬変に進行することがありますが、早い段階で副腎皮質ステロイドの内服をスタートすれば、進行を止められる病気です。ただ、自覚症状だけでご自身が自己免疫性肝炎であることを察知することは難しいので、ポイントは健診を定期的に受けること。そして、先ほどお伝えしたAST(GOT)やALT(GPT)といった肝臓の数値の変化に異常がないかを確認するようにしましょう。
たとえ、自己免疫性肝炎であることがわかっても、早くに治療を開始して状態が安定している人は予後も良く、長期的に普段どおりの日常生活を送ることができます。ぜひ早期発見・早期治療ができるようにしてください。
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この記事を監修した人
古川 真依子 (ふるかわ まいこ) 医師
医学博士/日本内科学会 総合内科専門医、日本消化器病学会 消化器病専門医、日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡専門医・指導医、日本消化管学会 胃腸科専門医、日本ヘリコバクター学会 ピロリ菌感染症認定医 、日本カプセル内視鏡学会 カプセル内視鏡認定医、日本人間ドック学会 人間ドック認定医
専門分野:消化器内科・内科
2003年東京女子医科大学卒業
東京女子医科大学附属青山病院消化器内科で医療錬士として関連病院等にて診療にあたり、2008年帰局後は助手として指導にも尽力。2013年より東京ミッドタウンクリニック勤務。胃がん・大腸がん・腫瘍など消化器系の疾患だけでなく、便秘や産後の痔など女性ならではの悩みにも詳しい。