お尻の老化が痔を悪化させる?40代以降の女性が気を付けるべきこと

肛門および肛門周辺に腫れや傷ができ、排便時に痛みや出血を伴う痔。男性に多い疾患と思われがちですが、密かに悩んでいる女性は多く、潜在的な患者を含めると男女差はあまりないといわれています。酷くなると、座るのもつらい痛みが続き、場合によっては手術になることも...。
つらい痔を悪化させないためにも、注目したいのが年齢とともに衰えていく「お尻の老化」。お尻の老化は誰にでも起こるため、お尻の筋肉を意識的に鍛えることが重要です。
ここでは、痔のメカニズムや原因のほか、痔やお尻の老化を予防する方法について、東京ミッドタウンクリニックの消化器内科医師、古川真依子先生に伺いました。
女性の痔の原因と、いぼ痔・切れ痔・痔ろうの症状
――まずは、なぜ痔になるのか、そのメカニズムから教えてください。
痔は、肛門やその周辺の血管が集中しているところに、腫れや傷ができる疾患です。肛門付近の血流が悪くなったり、肛門に負担がかかったりすることによって発症します。
女性の痔の原因として目立つのは、妊娠・出産をはじめ、便秘や下半身の冷え、デスクワークなど同じ姿勢が続くことによる血行不良です。
妊娠・出産
妊娠すると、大きくなった子宮が下腹部の血管や直腸、膀胱を圧迫するため、肛門付近に大きな負担がかかって痔になりやすくなります。また、出産時のいきみが痔の原因になることもあります。
便秘
便秘でトイレに座っている時間が長くなったり、便を出そうとしていきむ回数が増えたりすると、肛門に負担がかかります。女性は一般的に、便を押し出すために必要な腹筋が弱く、男性より便秘になりやすいといわれています。
加えて、ホルモンバランスの変化も、便秘のきっかけになることも。年齢を重ねてエストロゲンの分泌量が減ると、腸のぜん動運動が鈍くなっていくほか、更年期に入って皮下脂肪がつくことで、ぜん動運動やいきむ力が弱まることもあります。
同じ姿勢を長時間続けることや、下半身の冷えによる血行不良
デスクワークでも立ち仕事でも、同じ姿勢を長く続けると、筋肉が緊張して血管を圧迫し、血液の流れが滞ります。そうすると、温かい血液が毛細血管へ流れず、下半身や手足などの冷えを招くことに。
下半身が冷えることで血液の流れはますます悪化し、肛門を締める筋肉である肛門括約筋(こうもんかつやくきん)の緊張につながって、痔の原因になります。
――痔と一口にいっても、さまざまな種類があるそうですね。
痔の種類は、大きく「いぼ痔(内痔核、外痔核)」「切れ痔」「痔ろう」の3つに分けられます。それぞれ、原因や発症する場所が異なります。
いぼ痔
肛門の周りにある、血管が集まった部分にいぼ状の腫れができるのが「いぼ痔」。いぼ痔の中でも、肛門の外側にできるものを「外痔核」、内側にできるものを「内痔核」と呼びます。
外痔核は、痛みを伴う場合が多いです。内痔核は痛みがなく、排便時の出血によって気付くことが多いですね。ただし、内痔核が大きくなると、いきんだときに肛門の外に飛び出して手でさわれるようになり、異物感や炎症による痛みを感じることがあります。
切れ痔
いきまないと排便できないひどい便秘のときや便が硬いとき、激しい下痢が続いたときなどに、便が通過する肛門の皮膚がこすれて傷付くのが「切れ痔」。排便のたびに痛みや出血を伴います。
痔ろう
肛門周辺に直腸から便や細菌が入り込んで炎症を起こし、膿が溜まって、最終的に直腸と肛門周辺の皮膚にトンネル状の通り道ができるのが「痔ろう」。
慢性的に下痢を繰り返す、クローン病の合併症としては発症頻度が高いものの、いぼ痔や切れ痔に比べると発症率は低いといえるでしょう。
――痔の治療法について教えてください。
いぼ痔や切れ痔は、市販の軟膏剤を塗り、生活習慣に気を付けていれば症状を軽減できます。3日ほど様子を見て、改善しないようなら医療機関を受診しましょう。何科を受診すればいいかわからない方も多いようですが、内科や外科、肛門科に行けばお薬を出してくれて、症状もすぐに改善します。
痔ろうは専門的な治療が必要ですから、違和感を覚えたらすみやかに肛門科・肛門外科を受診することをおすすめします。
お尻の老化が痔の悪化を招く!?
――痔を悪化させる要因にはどのようなものがありますか?
痔を悪化させる要因のひとつに、お尻の老化が挙げられます。ここでいうお尻の老化とは、「肛門括約筋(こうもんかつやくきん)が衰えること」を指します。
肛門の筋肉には、自然に締まる内肛門括約筋、自力で締めたり緩めたりできる外肛門括約筋がありますが、どちらも年齢とともに筋力が低下していきます。そうすると、排便をうまくコントロールできなくなり、肛門に物理的な負担がかかり続けることになるんです。
肛門括約筋の老化は放っておくと進む一方ですから、意識して鍛えることが大切ですね。
――お尻の老化を防ぐ方法はあるのでしょうか。
日常生活の中に、お尻を締める習慣を取り入れるといいでしょう。通勤電車の中やテレビを観ているとき、寝る前などに、肛門を引き上げるイメージで「キュッ」と締めるのがおすすめです。1セット10回、1日数セットを目標にして毎日続けてください。
また、骨盤の広がりも、肛門括約筋の衰えにつながります。座るときは、背中を丸めず体をまっすぐ保ち、骨盤を後傾させないように注意してください。お尻がベタッと横に広がらないように、きれいなお尻の形をイメージして、それが崩れないように座るといいですよ。
肛門に負担をかけない生活習慣が痔の予防につながる
――お尻を締める習慣は、生活の中に取り入れやすいですね。ほかに、更年期以降の女性が痔になるのを防ぐ方法や、痔を悪化させないためにできることがあれば教えてください。
大切なのは、肛門に負担をかけないことです。「良い排便習慣をつけること」「排便トラブルを防ぐこと」「下半身の血行を良くすること」を心掛けて痔を予防し、もし痔になってしまっても、それ以上悪化させないように気を付けましょう。
良い排便習慣をつけること
便意を感じたら我慢せずにトイレに行くようにしましょう。また、毎日同じ時間にトイレに行くようにするように心がけると、排便リズムが整いやすくなります。
排便トラブルを防ぐ
下痢や便秘といった排便トラブルを防ぐために、便をまとめる不溶性の食物繊維といい便を作る水溶性の食物繊維のほか、発酵食品や乳製品をバランス良くとりましょう。
少しいきめば、便がスルッと出る状態を保つと、お尻の負担が軽減されます。
■不溶性・水溶性、もしくはいずれの食物繊維が豊富な食材
下半身の血行を良くする
仕事柄、座りっぱなしや立ちっぱなしの姿勢が続く人は、どうしてもお尻周りの血液循環が滞りやすくなります。むくみが出たら血行不良のサインですから、定期的に立ち上がったり、歩き回ったりして、血行を促してください。
「痔かもしれない...」と思いながらも人に相談できず、知らぬ間に悪化してしまうケースは少なくありません。痛みや出血が続く場合は医療機関を受診し、別の疾患が隠れていないかを含めて、きちんと診察を受けて治療しましょう。
マイコ先生の診察を受けられる施設はこちら
→東京ミッドタウンクリニック
この記事を監修した人

古川 真依子 (ふるかわ まいこ) 医師
医学博士/日本内科学会 総合内科専門医、日本消化器病学会 消化器病専門医、日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡専門医・指導医、日本消化管学会 胃腸科専門医、日本ヘリコバクター学会 ピロリ菌感染症認定医 、日本カプセル内視鏡学会 カプセル内視鏡認定医、日本人間ドック学会 人間ドック認定医
専門分野:消化器内科・内科
2003年東京女子医科大学卒業
東京女子医科大学附属青山病院消化器内科で医療錬士として関連病院等にて診療にあたり、2008年帰局後は助手として指導にも尽力。2013年より東京ミッドタウンクリニック勤務。胃がん・大腸がん・腫瘍など消化器系の疾患だけでなく、便秘や産後の痔など女性ならではの悩みにも詳しい。
recommended
カテゴリー