40代以降が意識したい動脈硬化、ちょっとした心掛けで予防できる!

いつの間にかジワジワと進行し、ある日突然命にかかわるような病気を引き起こす動脈硬化。生活習慣とも密接に関係し、年齢を重ねるごとにその発症リスクは高まっていきます。誰もが動脈硬化になる可能性があるからこそ、少しでもそのリスクを減らしたいもの。

今回は、そんな動脈硬化の原因と予防法について、東京ミッドタウンクリニックの特別診察室長を務める内科医師・渡邉美和子先生に詳しく伺いました。

動脈硬化は生活習慣からの影響が大きい

――動脈硬化は、女性ホルモンが減少する40代以降から特に注意が必要といわれていますが、そもそもなぜ動脈硬化になってしまうのでしょうか?

動脈硬化は、基本的には血管の老化。年齢が高くなれば動脈硬化が進む危険も高まるのはもちろんですが、実は0歳の時点から徐々に「硬化」は始まります

血管は「内膜」「中膜」「外膜」の三層構造になっていますが、動脈硬化において特に大切なのは、血液に接する「内膜」とその表面を覆う「内皮細胞」という細胞の層。内皮細胞は血液から必要な成分を取り込むフィルターであり、そのほかにも大切な役割を担っています。高血圧症や糖尿病、喫煙などの悪い刺激によって内皮細胞が傷付けられると、その部分のフィルター作用がうまく働かなくなり、血液中のゴミがくっ付いて、さらに過剰なコレステロールが蓄積するのです。

赤ちゃんのころは薄くて弾力があった血管壁も、徐々に厚く、硬くなっていきます。そして、何十年もかけて内膜の中にコレステロールが蓄積し、次第に脂肪分が沈着して血管が狭くなるのです。脂肪分が沈着して「おかゆ」や「チーズ」と表現される変化を「粥状(じゅくじょう)硬化」といい、「プラーク」と呼ばれます。

この粥状硬化があるとき突然破綻することが、心筋梗塞の原因といわれています。破綻によって形成された血栓がその場で血管をふさぐ(狭窄)だけでなく、血栓がはがれてその先の血管を詰まらせ、脳梗塞や閉塞性動脈硬化症などを引き起こしてしまうのです。

■血管断面図

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■動脈硬化に至る血管内の変化

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年齢以外に動脈硬化が進む危険因子は大きく5つあって、それが喫煙・高血圧・糖尿病・脂質異常症(血液中の悪玉コレステロールや中性脂肪の増大、善玉コレステロールの減少)・肥満(内臓脂肪過多)

特に女性は、閉経後に女性ホルモンが急激に減少するせいでHDLコレステロール(善玉コレステロール)が減少し、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)や中性脂肪が急上昇するほか、女性ホルモンによって保たれていた血管の柔軟性が維持されず、心筋梗塞や脳血管障害を起こしやすくなります

ほかにも、アルコールを含む食事、運動不足、睡眠障害、ストレスなどにも気を付けなくてはいけません。

――LDLコレステロールや中性脂肪によって血液がドロドロになってしまうと、余計に血管を詰まらせそうで怖いですね。

血液のドロドロ状態は、砂糖水をイメージするとわかりやすいと思います。砂糖が多ければドロドロしますし、砂糖の量が同じでも水が足りなければ同様にドロドロします。つまり砂糖にあたるコレステロール値や血糖値を下げるだけではなく、脱水がないことも重要で、まずは水分をこまめにとることを心掛けるといいでしょう。

いわゆる血液をサラサラに保つことの基本は、規則正しい食事と運動、そして安眠。当たり前と思われがちですが、これは想像以上に影響がありますね。

血液は1ヵ月あれば変わります。不規則な生活の中で血糖値やコレステロールの数値が気になるようなら、専門医に相談の上、まずは1ヵ月、自分にとって一番負担なくできる小さな生活改善に取り組んでみてください。例えば、食事の量は減らさなくてもいいので、夜遅くに食べることをやめてみる、よく噛んでゆっくり食べるよう心掛ける、といったことですね。その後、血液検査をすれば数値に改善が見られるはずです。

もし改善が見られないようであれば、もう少しだけ、改善できることを増やしてみます。同じ時間を歩くにしても早歩きにしてみる、「ながらエクササイズ」を少し取り入れてみるなど。そういった少しずつの工夫を1ヵ月ごとに3回続ければ、自分の生活習慣の何が効果的でどうやれば維持できるか、だんだん把握できるようになると思いますよ。

3ヵ月試しても改善の兆しがなかったら、それは「体質」と考えて内服薬を始めれば、最小量の薬剤で最大の効果が得られることになり、納得感にもつながるでしょう。薬は一度飲み始めるとやめられなくなる、ということはありません。生活習慣改善と並行して薬を飲み、いずれ生活習慣改善の成果が出たら薬を卒業できる可能性もあります。

健康診断の数値こそ命を守る最初の警告

――高カロリーな食事や飲酒、間食、夜ふかしなど、健康に悪いと思っていても、一度身に付いてしまった生活習慣はなかなか変えられないという人は多いですよね。健康診断でも悪いところがないと安心してしまいがちです。

日本女性の平均寿命は、2016年の統計によると世界一となる87.14歳ですが、健康寿命は74.79年(厚生労働省、2016年「日常生活に制限のない期間の平均」)と短いのです。つまり、亡くなるまでに寝たきりだったり、介護を受けていたりする期間が約10年以上あるということになります。病気で苦しまず、元気に長生きする「ピンピンコロリ」の理想とは、だいぶかけ離れていますよね。

慶應義塾大学医学部教授の伊藤裕先生が2003年に提唱した「メタボリックドミノ」という考え方があるのですが、生活習慣病がまるでドミノ倒しのように着実に進む様子を表しています。高血圧症や糖尿病など本人にとって自覚症状のない状態でも、みずから意識してドミノの連鎖を止めなければ、確実に進行。いずれ脳梗塞や心筋梗塞を起こしたり、合併症としての腎不全(透析)、失明、下肢切断など生活習慣の質を著しく低下させたりする状態に進みます。ドミノ倒しを止めるのにまず大切なことは、生活習慣です。

メタボリックドミノ

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※1 マクロアンギオパチー...心筋梗塞、脳梗塞、閉塞性動脈硬化症など、糖尿病が引き起こす大血管(大動脈やそこから分岐する動脈)の合併症。
※2 ミクロアンギオパチー...網膜症、腎臓障害、神経障害など、糖尿病が引き起こす微小血管(細動脈や細静脈、毛細血管といった細い血管)の合併症。
※3 ASO...閉塞性動脈硬化症。動脈硬化によって手足など末梢の血管に障害が生じている状態。


メタボリックドミノの出発点にあたる、生活習慣の乱れによる肥満(内臓脂肪型肥満)の時点で、まず意識してください。それに続く高血圧症、脂質異常症、糖尿病の兆しが出た際には、重症化する前に真剣に生活習慣を改善したり、必要に応じて内服薬を用いてコントロールしたりしなければ、確実に動脈硬化まで進み、ドミノ倒しのように病気が連鎖していきます。

遺伝や体質もありますが、食事や運動など、生活習慣を改善することによる影響のほうが大きいですから、元気な老後のためにも早いうちから取り組んでほしいです。

――動脈硬化は気付かないうちに進んでしまうと聞きますが、どうやって見つけたらいいでしょうか?

まずは、喫煙、高血圧症、糖尿病、脂質異常症、内臓脂肪過多と5つの大事な危険因子が該当するかどうかです。実際の血管の変化としては頸動脈エコーで、血管の壁の厚さやプラークの大きさ、破綻しそうな不安定プラークではないか、などを測定することはできます。

さらに積極的な方法としては、冠動脈CTや心臓のカテーテル検査で血管の詰まりを見る場合もあります。ただし、プラークの大小や血管の詰まり具合だけで評価できることは限られているので、いつ心筋梗塞や脳梗塞の発作が起こるか、100%予見できるわけではありません。

だからこそ、動脈硬化に至らないように自分で防ぐことが一番。そのために、健康診断の結果を最初のアラートとして受け止めてください

――健康診断では、どういった項目をチェックすればいいのでしょうか?

血圧、糖代謝(血糖値)、脂質代謝(悪玉/善玉コレステロール値、中性脂肪値)の3つがまず重要です。至適血圧は最高血圧が120mmHg以下、かつ最低血圧が80mmHg以下ですので、最高血圧135mmHg以上、最低血圧85mmHg以上なら要注意です。

ヘモグロビンA1cは6.5%以上が続くと糖尿病と診断されますが、6.0%になった時点で予備軍ですから、炭水化物の摂取量を減らすなど、本格的に対策をしてください。正常高値の範囲とされる5.6%くらいから炭水化物のとり過ぎに注意して、5.9%以内を維持するように努めましょう。

また、悪玉(LDL)コレステロールの病的基準値は140mg/dlですが、できれば120(mg/dL)以内、善玉(HDL)コレステロールは高いほうがいいので60(mg/dL)以上を目指しましょう。特にHDLコレステロール値を改善させるには運動習慣が重要だといわれています。コレステロール値だけが単独で高い場合は、内服をせずに経過をみる場合もありますが、糖尿病・高血圧・喫煙の危険因子のうち、どれかひとつでも該当する方は、このコレステロールの数値に特に気を付けてください

肝機能は、GOT、GPT、ガンマGTPの数値(IU/L)が、いずれも2桁以内であることが一つの目安になると思います。

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「がんばらずに」実践できる予防法

――中性脂肪やコレステロール、血圧の数値を正常にするための方法にはどんなものがありますか?

中性脂肪の数値は、すぐに上がったり下がったりするので、自分でコントロールしやすいです。「脂肪」と付いていますが、影響するのは炭水化物とアルコールなので、まずこの2つを見直してください。

お酒が好きな人は、飲酒時にはお酒と同量以上の水を飲んでアルコールを代謝させると同時に、血管内脱水を防ぐこと。食べ過ぎてしまう人は、倍以上噛むようにして脳の満腹中枢を働かせ、食べ過ぎる前に満腹感を得られるようにするだけでも違ってきます。

また、LDLコレステロール値を下げるには、食物繊維が有効です。野菜、キノコ、海藻を多くとってください。サプリメントでもOKです。私自身も、顆粒タイプのサプリメントを携帯して、コーヒーやスープに入れて飲んでいます。

また、卵などコレステロールが高い食品を避ける食事法は、実は意味がありません。なぜなら、食事からとるコレステロールが少なくなると、その分、体内で作られるコレステロールが増えるからです。食事でとるコレステロールについては、神経質になる必要はありませんよ。

血圧を下げるには、適度な運動することも大事です。運動不足の人ほど効果がすぐに出ますよ。もちろん血圧が異常に高く不安定な時期には運動は禁忌になりますから、主治医に相談して無理のない範囲から始めてください。睡眠不足も影響がありますから、良質な睡眠を心掛けてください。お酒が好きな人は、飲んですぐに寝ると睡眠の質が下がってしまうので、飲酒は寝る3時間前まで。塩分が高いおつまみなども控えましょう。

――ストイックにがんばらなくても、無理なく実践できそうなことばかりですね。

ただ生活を改善するといっても、ダイエットと同じように、我慢しすぎると長く続けることはできません。動脈硬化が進んでしまったら、生活をする上でさまざまな制限が設けられてしまいますが、その進展は今回ご説明したようなちょっとした心掛けで防ぐことができるのです。がんばらずにできる方法を取り入れて、それを長く続けていくことが大切ですよ。

それでもなかなか数値が改善しない場合は、医師が処方する薬に頼ってください。患者さんの中には、「一度飲み始めたらやめられないのではないか」と、薬を飲むことを躊躇される方もいますが、そんなことはありません。むしろ早めに治療を始めたほうが最少量の薬で最大限の効果が得られますから、必要以上におそれることはありませんよ。

動脈硬化は、「これからの行動」次第で十分に防げるもの。そのためには、きちんと定期的に診察を受けて、ご自身の体の状況を知ることが大切です。そうすれば、今の自分に何が必要なのかがわかりますから。


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東京ミッドタウンクリニック 特別診察室


SUPERVISERこの記事を監修した人

渡邉先生

PROFILE

渡邉 美和子 (わたなべ みわこ) 医師

専門分野:内科・抗加齢医学

1994年 北里大学医学部卒業
慶應義塾大学内科学教室 入局。永寿総合病院勤務などを経て、2003年医療法人社団桃蹊会理事長、2007年マリーシアガーデンクリニック院長を経て、2010年より東京ミッドタウンクリニックへ。2011年東京ミッドタウンクリニック「特別診察室長」に就任、2020年東京ミッドタウンクリニック「外来診療部長」に就任、2022年には東京ミッドタウンクリニック「副院長」に就任。臨床の場で会員制医療における健康危機管理や医療相談に携わるほか、日本抗加齢医学会、日本内分泌学会をはじめ医学学会でのお弁当監修や企業との健康関連事業に取り組むなど、独自の食指導「安心で美味しい食の医療プロジェクト」にも力を入れている。

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※掲載している情報は、記事公開時点のものです。
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