食べる順番や食感の工夫が大事!体を整える食事の仕方
「若いころに比べるとやせにくくなってきた」という悩みを抱える方が多いILACY(アイラシイ)世代。低糖質や低カロリーなど、「ダイエットにいいといわれる食事は一通り試した」という声はよく聞かれます。
しかし、目的をひとつにしぼった食事法や極端な食事制限は、「やせる」という限定的な効果を得る代わりに、かえってやせにくい体を作ってしまったり、さらには別の疾患の原因を作ってしまったりすることも考えられます。
今回は、食事の味付けや食感の活かし方、食べる順番に着目し、やせやすい体づくりだけでなく、あらゆる目的に有効な「体を整える食事の仕方」について、東京ミッドタウンクリニック特別診察室長である内科医師・渡邉美和子先生にお話を伺いました。
食べる順番や食感を工夫して満腹感を得る
――よく「野菜を先に食べると体にいい」と聞きますが、具体的にはどのような効果があるのでしょうか?
野菜のほか、きのこや海藻に多く含まれる食物繊維は、血糖値の急激な上昇を抑えるのに有効です。やせていても糖尿病になりやすい日本人には、特に適した食べ方だといえるでしょう。好きな物だけ先に食べておなかが満たされてしまうのを防ぐために、野菜が苦手な方にもおすすめしたいですね。
ただ、最初にレタス1枚食べた程度では、とても効果があるとはいえません。血糖値の上昇を抑制する効果を実感するには、野菜を中心とした炭水化物以外の、できれば食物繊維の豊富な惣菜を10分間食べ続けるくらいの感覚が必要です。
「10分間食べ続けるくらいのサラダってどれくらいの量!?」と思われるかもしれませんが、サラダだけではなく、野菜たっぷりのお味噌汁や漬物、おひたしなども、先に食べる食物繊維の豊富な惣菜として適しています。食感を楽しみながらゆっくりよく噛み、味わって食べれば10分はあっという間です。
――野菜を先に食べることで満腹感を得やすくなる、ということもありますか?
それは確かですね。よって、その後に食べる量も自然に減り、無理なく糖質量の低減が期待できると思います。
ダイエットのために毎食キャベツを山盛り食べるとか、きゅうり数本を必ず食べることを課すダイエット企画をテレビなどで見かけることがありますが、義務的に食べるのでは長く続けられません。 何か一つの野菜に固執する必要はありませんので、その時々で見つけられる、ちょっとおいしい野菜をチョイスしてみるのはいかがでしょうか。
採れたての甘い野菜をオリーブオイルと塩だけで食べてみたり、味噌をつけてみたり、ちょっと慣れてきたら酢漬けにしてみたり――私が最近凝っているのは、毎日のように使っている土鍋で簡単にできる蒸し野菜。短時間放置するだけで、土鍋の保温力と遠赤外線効果で甘みを増したシャキシャキの色鮮やかな野菜が蒸し上がり、歯ごたえも抜群でおいしいです。
スーパーに行くとまっしぐらに野菜コーナーに向かう、外食時にも野菜を活かしたメニューに目が行くようになれば、もうベテランです。健康のために何かを無理して行うのではなく、楽しんでそうしていることが自然に健康につながる、「健康癖」がついたライフスタイルを目指したいものです。
――食べる順番を意識することで、食事の総量を減らしてやせやすい体を作ることはできそうですね。
低糖質、低カロリーといったダイエット法がたくさん提唱されていますが、何より大切なのは「おなかがいっぱいになったら食べるのをやめる」という意識、感覚を身に付けることです。
「ゼロカロリーだから」「糖質ゼロだから」と無制限に食べる生活では、いつまで経っても「脳を満足させる食習慣」が定着しません。その結果、リバウンドやストレス食いにつながってしまいます。
満腹感を感じやすくさせるために、食物繊維が豊富な野菜やきのこ、海藻といった食材を先にとる、「食べる順番の意識」は、自然にやせやすい体を作るコツともいえます。さらにちょっとした工夫として、アマニ油やエゴマ油、インカインチオイル、カメリナオイルといったオメガ3系脂肪酸が豊富な良質脂質をいっしょに摂取すると、より満腹感が高まって一石二鳥。クセのあるオイルはバルサミコと合わせていただくと風味も楽しめますよ。
――ほかに、無理せず食事量を減らすコツはありますか?
再び「脳を満足させる食習慣」につながりますが、「よく噛む」という食行動も大切。食物繊維が豊富な食材は通常噛み応えがあり、よく噛む食材を先に食べると、その後の食事も自然によく噛むリズムができると思います。食物繊維自体の効果とよく噛む効果とで相乗効果が得られますよ。
調理のときに、お野菜などを少し粗めに刻むようにして、食感を残します。シャキシャキとした歯触りがあると自然と噛む回数が増えるので、満腹中枢が刺激されやすくなりますよ。
このときに、香味や出汁を効かせて塩分を減らすことが大切です。しょっぱい物は長く口の中に入れておくことができないので、ご飯をいっしょに食べて塩辛さをごまかすか、あまり噛まずに急いで飲み込むかのどちらかになります。高血圧症や胃ガンなどとの関連性が指摘されている塩分ですが、大食い・早食いにつながるという点からもできるだけ控えるようにしましょう。
<健康的に満腹感を得られる3つのポイント>
1. 食べる順番を意識する
食物繊維を先にとることでコレステロールの吸収や血糖値の急激な上昇を抑える。
2. 食材選び、調理方法を工夫する
・野菜やきのこ、海藻など食物繊維が豊富な食材を選ぶ
・食材をある程度大きさを残して切る、茹ですぎないなど調理法を工夫し、カロリーを抑えても食感を活かして満足感を得る。
・パンや米といった主食(糖質)を減らした分、生じる空腹感を防ぐため、オメガ3系脂肪酸が豊富な良質脂質をあえて摂取する。
・満腹以上に食べる習慣をやめる
・満腹感を意識できるよう、よく噛み、ゆっくり食べる
・ながら食いをやめる
山椒などのスパイスを活用して減塩
――塩分を減らすと、食事が味気なくなってしまうと悩んでいる人は多そうですが...。
いきなり減塩の食事に変えれば、もちろんおいしくないと感じるでしょうし、つらいと思います。
例えば、しょうゆや塩といった調味料は、調理の段階からしっかり味付けしようとするとどうしても使う量が多くなってしまいますが、食材が持つ旨味を活かすつもりで極力控え、食べるときに「つけて食べる」方式にすると総量を簡単に減らすことができます。最初のうちは、インパクトのある味付けのお料理をひとつだけ残しておくと、そのほかのお料理が減塩されていても案外満足感は高いものです。
塩茹でにしていた物をお出汁で茹でたり、わさび・七味などのスパイスをうまく取り入れたりすると、減塩のメニューも味わい深くなっておいしくなりますよ。先ほどの食べる順番にも通じることですが、最初にお出汁の旨みを感じられる物から食事をスタートできるようにお皿を並べるなど、配膳にこだわるのもいいですね。
米酢、黒酢、紅酢といったさまざまな風味を楽しめる酢は、旨味やコクもでて減塩の強い味方。醤油よりポン酢、ポン酢よりカボス、といた風に心掛けるといいと思います。
――単に塩を減らすのではなく、塩の代わりになる物を上手に使うということですね。これならおいしく減塩できそうです。
これはちょっと特別な方法なのですが、減塩の知恵として、山椒を使う方法があります。食事の最初に山椒を使った物を食べるか、山椒そのものをちょっとかじってから食事を始めると、味覚が鋭敏になって食材そのものが元々持っている甘み、旨み、塩味を強く感じられるようになるんです。
山椒を食べると、口の中がぴりぴりとしびれる感じがしますよね。あの刺激が収まるのを待って、木綿豆腐など、味が淡白な物を食べてみてください。お豆腐の味がいつもよりずっと濃く、おいしく感じられるはずです。
――外食のときは、どんなことを意識するべきですか?
どこで食べるときでも原則は変わりませんが、基本的に食事は楽しんでするもの。例えばラーメン屋さんで野菜を先に食べるのはなかなか難しいと思うのです。ちょっと気にして野菜を大盛りにして、麺より先に上にのっている野菜から食べるくらいならできるかもしれないけど、あまり効果は期待できないでしょう。
お寿司屋さんなら、お刺身を先に注文して、ツマといっしょに食べてからお寿司を食べるという流れができればベストですが、握りのセットをランチに食べるとなったら、それも難しいでしょう。そういうときは、「今回の1食に関しては仕方ない、無駄な抵抗はせずにおいしくいただこう」と割り切ってしまうのも手です。
――すべての食事を完璧にしようとする必要はないということですね。気持ちが楽になりました。
ジャンクな物をたまに食べている人が絶対に体を壊すかといったら、そうではありませんよね。人間の体には、環境が変化しても体の状態を一定に保とうとする「ホメオスタシス」という力が備わっていて、体内に少しくらい良くない物が入っても排除してくれます。ホメオスタシスのゼロベースがどこにあるか、が大切です。
健康的な生活がベースで、たまに乱れるくらいであれば、体は健康的な生活のベースに戻るようにできています。一方で、不健康な習慣の連続が自分のゼロベースになってしまったら...復活させるのはたいへん。「体を整える」ということは、短期的な視点ではなく、100歳までの寿命を元気に生きるという長期的な視点に立って考える習慣をつけましょう。
すべてに共通していえるのは、「楽しくなければ何事も続かない」ということ。何を試すにしても、「ギスギスしないで、エレガントに」の精神がいいのではないかと感じています。
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この記事を監修した人
渡邉 美和子 (わたなべ みわこ) 医師
専門分野:内科・抗加齢医学
1994年 北里大学医学部卒業
慶應義塾大学内科学教室 入局。永寿総合病院勤務などを経て、2003年医療法人社団桃蹊会理事長、2007年マリーシアガーデンクリニック院長を経て、2010年より東京ミッドタウンクリニックへ。2011年東京ミッドタウンクリニック「特別診察室長」に就任、2020年東京ミッドタウンクリニック「外来診療部長」に就任、2022年には東京ミッドタウンクリニック「副院長」に就任。臨床の場で会員制医療における健康危機管理や医療相談に携わるほか、日本抗加齢医学会、日本内分泌学会をはじめ医学学会でのお弁当監修や企業との健康関連事業に取り組むなど、独自の食指導「安心で美味しい食の医療プロジェクト」にも力を入れている。