健康にも美容にも効果大!「味覚を育てる減塩」とは?
高血圧や脳梗塞、心筋梗塞に体のむくみ――塩分の多い食生活は、健康にも美容にもマイナスの影響が多くあります。それはわかっていても、塩分控えめの食事は味気ないと感じてしまいますね。
食事を楽しみながら健康を、そして美しさを保つことはできるのでしょうか?
ここでは、「食材の旨みを引き出す食生活を続けることで、しょっぱい物に慣れた味覚を育てることはできます」と語る、東京ミッドタウンクリニック特別診察室長、内科医師・渡邉美和子先生に、単なる減塩から一歩進んだ「味覚を育てる減塩」についてお話を伺いました。
WHO目標値の2倍も摂取!塩分過多の日本人
――塩分の高い食生活は、体にどのような悪影響があるのでしょうか?
塩分摂取量が多いと、高血圧や胃がんのリスクが高まるのと同時に、脳梗塞や脳出血、心筋梗塞などのリスクも高めます。
しょっぱい物は口の中に長いあいだ溜めておけないため、早食いにつながって肥満にもなりやすいですね。
また、塩分はむくみ予防の働きがあるカリウムを体外へ排出してしまいます。このため、むくみが起こりやすくなり、美容面でも影響が出てしまいます。こう考えていくと、塩分が多い食生活は、さまざまな面でデメリットが多いといえるでしょう。
――日本人は、塩分の摂取量が高い傾向があるそうですね。
世界保健機関(WHO)が定める塩分の摂取目標量は5g。これに対して、日本の食事摂取基準が示す目標値は男性8g、女性7gです。
しかし、実際の日本人の摂取量はさらに多く、男性10.8g、女性9.1gとWHOの目標値の約2倍となっています(厚生労働省「平成29年国民健康・栄養調査報告」)。和食はヘルシーというイメージがありますが、味噌汁や漬物をはじめ、どうしても塩分の摂取が多くなりがちなのが難点ですね。
調味料の置き換えで減塩
――先生は「味覚を育てる減塩」を提唱されていますね。
単に塩分を減らすだけではなく、「旨み」に置き換える減塩を提唱しています。塩分を減らした分、化学調味料に置き換えてしまっては意味がありません。そうではなく、素材の旨みを引き出す工夫をすることで、しょっぱい物に慣れて鈍感になった味覚も育てられます。
――具体的にどのように減塩をすればいいか、コツを教えてください。
簡単なのは、お酢を活用することです。しょうゆをポン酢に置き換えたり、かぼすやレモンを加えてみたりしてください。塩分を減らしても、お酢が味覚にとって刺激になるので、おいしくいただけますよ。
お酢はどんな料理にも活用することができて、コクを出してくれます。酸っぱさが苦手な方は、例えばカレーを煮込むときなどの調理段階で使うと、加熱によって酸味が取れて、味が驚くほどまろやかになります。
お酢は発酵食品なので、体にいいのもうれしいですね。
特におすすめなのは黒酢。黒酢は作られる土地ごとに味が違うので、さまざまな地方の物を試してみても楽しいですよ。
――お酢なら手軽に取り入れられそうですね。
お酢以外でも、出汁やスパイスも減塩の強い味方。旨味や香りが加わると、塩分が少なくて済むのです。今は出汁パックやフリーズドライなど、市販の出汁がたくさんあるので便利ですよね。私が好んで使うのは、和風出汁ではあご出汁(飛び魚から取った出汁)。洋風出汁では、私は野菜を凝縮したブイヨンをよく使っています。
スパイスでは、わさびや七味、胡椒などに加えて、特に推奨したいのは山椒です。以前の記事でもご紹介しましたが、山椒は風味が良く、和食だけでなく洋食にも意外なおいしさを引き出します。そして何より味覚を鋭敏にしてくれるため、食事の前半に山椒を使った物を食べる、あるいは食前に少しかじってから食べ始めると、驚くほど味覚が鋭くなっていることに気付くはずですよ。
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また、ハーブもさまざまな種類がありますから、好みの物を見つけて取り入れてみてはいかがでしょうか。例えば、ハーブ塩を使った焼き魚はとてもおいしいです。少し高級感が出ますし、香りがある分、少ない塩分でもしっかりと味わえますよ。
味覚を育てるという意味では、ニョクマムやしょっつるなど、魚を発酵させた魚醤も風味があっていいですね。ただし、塩分は高めなので控えめに使ってください。
ひと手間かけた調理で減塩につなげる
――市販のドレッシングなどは、やはり塩分が高いのでしょうか?
外食産業でリピートさせるコツは、味付けに「塩分」と「油分」を豊富に用いてインパクトを与えること。一口めで味覚に強烈な刺激を与えることで強い印象を残し、また食べたいと思わせるのです。このことと同様に、市販の調味料も塩分が強くなりがちです。
そのため、凝ったものである必要はないので、手作りドレッシングに挑戦してみてはいかがでしょうか。オリーブオイルにバルサミコ酢、好みのスパイスを入れるだけでも十分おいしいですよ。オリーブオイルも種類によって、スパイシーな物、甘みのある物と、いろいろあります。
また、少しもったいないと思われるかもしれませんが、調味料は小さなサイズを購入すること。ボトルなど大きいサイズの物を買うと、早く使いきれずに酸化しやすいからです。酸化して香りや風味が逃げると量をたくさん使いたくなるので、減塩の観点からすると意味がありません。
――確かにそうですね。割高になるのを避けるために大きいサイズを買ってしまいがちなので、気を付けたいです。
また、素材を活かした調理でいえば、玉ねぎを皮付きのまま半分に切り、オリーブオイルをかけてオーブンで焼くだけで、時間はかかりますがとても甘みが出ます。そのまま食べてもおいしいですが、少量のハーブ塩やマスタードをつけていただくのもいいですね。
また、圧力鍋を活用するのも手。肉じゃがなどの煮物をするのに圧力鍋を使うと、玉ねぎやにんじんといった野菜の旨味が引き出されるので、しょうゆの塩分を減らせるのはもちろん、甘みも加わって、はちみつや砂糖がごく少量で済みます。こういった調理のひと工夫で、必要な調味料の量は大きく変わってきますよ。
味覚が育つと、おいしい物にめぐり合える
――工夫の仕方はさまざまありますね。これなら今日からでも始められそうです。
そうですね。あれこれ減塩の工夫はするけれど、食事の中の一品くらいはしょっぱい物を残しておいてもいいですよ。一品でもしょっぱい物を残せば、ほかのメニューの塩分を抑えても、案外平気なものです。
――味覚が育っていけば、減塩も苦ではなくなりますね。
味覚を育てる減塩に取り組むと、健康面にプラスになるのはもちろんのこと、おいしい物にめぐり合うチャンスが増えます。刺激に頼らなくても、食材そのものの味を感じられるようになるからです。
安くても質の良い物が手に入りやすいのが日本のうれしいところ。試しに、いつも買っているお豆腐をちょっとだけ良い物にしてみてください。すると、豆の味が全然違うことに気付くでしょう。高いといっても少しの違いですし、それで美容と健康が手に入るなら安いもの。
「少しだけ良い物」を選ぶことで買い過ぎを防ぎ、適量を食べるようになればダイエットにもつながります。
味覚を育てる減塩は、健康面にも美容面にもいいことばかりです。ぜひ、できることから始めて、楽しみながらチャレンジしてくださいね。
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この記事を監修した人
渡邉 美和子 (わたなべ みわこ) 医師
専門分野:内科・抗加齢医学
1994年 北里大学医学部卒業
慶應義塾大学内科学教室 入局。永寿総合病院勤務などを経て、2003年医療法人社団桃蹊会理事長、2007年マリーシアガーデンクリニック院長を経て、2010年より東京ミッドタウンクリニックへ。2011年東京ミッドタウンクリニック「特別診察室長」に就任、2020年東京ミッドタウンクリニック「外来診療部長」に就任、2022年には東京ミッドタウンクリニック「副院長」に就任。臨床の場で会員制医療における健康危機管理や医療相談に携わるほか、日本抗加齢医学会、日本内分泌学会をはじめ医学学会でのお弁当監修や企業との健康関連事業に取り組むなど、独自の食指導「安心で美味しい食の医療プロジェクト」にも力を入れている。