産婦人科専門医の観点でのフェムケアとは?【わたしをもっと愛そうフェス -Femtech SENDAI 2024-】

月経やPMS(月経前症候群)、更年期......と、女性の健康課題は数多くあります。女性が自分らしく輝いて生きていくにはこれらの不調や悩みをそのままにせず、適切にセルフケアを行うことが大切です。

今回は、2024年11月に開催された『わたしをもっと愛そうフェス -Femtech SENDAI 2024-』内での、産婦人科専門医の吉形玲美先生による特別講演の内容をお届けします。

女性ホルモンの影響

具体的なケア方法を知るためには、そもそも女性の体ではどのようなトラブルが起きるのか? を知っておく必要があります。はじめに、吉形先生から女性ホルモンの役割と、それに伴う女性の健康課題についてのお話がありました。

まず、ひと口に「女性ホルモン」といっても、エストロゲンとプロゲステロンの2種類があります
エストロゲンは女性らしい体を作ったり、皮膚や血管、骨といった体の大事な部分に作用したり......といった役割のあるホルモンです。一方のプロゲステロンは、主に妊娠のときに必要な役割を担います。

今回のフェムケアのお話にかかわってくるのは、エストロゲンです。エストロゲンには、私たちが日々生きていくための健康を守るはたらきがあるからこそ、月経や更年期などのタイミングで減少することでさまざまな不調を引き起こします。

このエストロゲンの作用を理解したうえで、フェムケアによる適切なアプローチをはかることとなります。

なお、こちらの記事では同じく吉形先生の講演内容をもとに、ライフステージ別に女性の健康問題やフェムゾーンのトラブルについて解説していますので、併せてご覧ください。
女性の健康と"腟マイクロバイオーム"【JSAセミナー2024レポート:前編】

女性特有の悩み別・医療機関で受けられるフェムケア

フェムケアというと、「市販されているアイテムを使って、個人で行うもの」というイメージを抱かれている方も多いかもしれません。しかし、医療機関で受けられるさまざまな治療もフェムケアに該当します

特に多くの方に知っていただきたいのが、PMS・月経痛、および更年期症状を改善できるフェムケアです。これらの不調は"我慢するもの"ではなく、適切な治療を受ければ緩和することができます


PMS・月経痛:ピルの服用

月経のある、いわゆる"性成熟期"の女性はエストロゲンに支配されているといっても過言ではありません。排卵や月経に伴うエストロゲンの増加・減少によって、PMS(月経前緊張症)や月経といった不調が現れます。

このような不調の改善に一役買うのが、ピルの服用です。世間一般的には「避妊のために服用するもの」という印象の強いピルですが、実はPMSや月経痛の改善を目的として服用することもできます。

そもそもピルは、排卵を休ませて女性ホルモンの分泌を抑えるといった仕組みのものです。排卵が休止することで、エストロゲン・プロゲステロン両方の分泌が穏やかになり、それに伴いPMSや月経痛の症状も緩和されます。

また、ピルのメリットはそれだけではありません。ピルを10年以上服用していると、卵巣がんや子宮体がんを発症する可能性が低くなるというデータもあります。

これは、排卵が休止するということは、すなわち生殖器の活動そのものが休止するということでもあるためです。

一方で、「メリットがあるのはわかったけれど、リスクが怖い......」と思われている方もいらっしゃることでしょう。しかしピルはリスクがとても低い薬となっています。喫煙者の方はピルを服用することで血栓症のリスクが高まる可能性はあるものの、基本的にはほとんどの方にとっては問題ないとされています。また、ピルの服用によって妊娠しづらくなるといったこともありません。ピルは"不妊にする薬"ではなく"排卵をお休みさせる薬"なので、服用をやめれば体のサイクルが元に戻り、3~4か月程度で月経周期が回復します。


更年期症状:HRT(ホルモン補充療法)&エクオールの摂取

更年期症状にお悩みの方に試していただきたいフェムケアは、2種類あります。HRT(ホルモン補充療法)と、エクオールという成分の入ったサプリメントの摂取です。

まずはHRTについて見ていきましょう。

HRTは、閉経によって減少したエストロゲンそのものを補う、更年期症状の根本的な治療方法です。飲み薬やパッチ、ジェルなど処方の手段はいくつかあり、医師に相談のうえ、ご自身に合ったものを選ぶこととなります。

なお、HRTは閉経前後~閉経後5年ぐらいまでのあいだに受けるのが理想とされています。更年期障害に対してHRTは保険診療が適応されているため、ご興味のある方はぜひ医師に相談してみてください。

続いて、エクオールの摂取についても解説します。

そもそもエクオールとは、大豆に含まれているイソフラボンという栄養素が変換されて生まれる成分のことです。女性ホルモンによく似たはたらきをするため、エクオールの摂取によっても更年期症状の緩和が期待できます。

HRTと比較すると効果はやや穏やかではありますが、それゆえ「できるだけ自然な方法でケアしたい」とお考えの方におすすめです。またエクオールは、子宮や乳腺への影響が少ないというメリットもあります。年齢による制限がないため、更年期症状に対するフェムケアとして非常に取り入れやすい方法だといえます。

大豆イソフラボンを摂取しても、誰もがエクオールを作ることができるわけではありません。体質に個人差があり、なかにはエクオールを作る力が弱い方もいるため、サプリメントでエクオールを取り入れるとよいでしょう。

産婦人科専門医がおすすめするフェムゾーンケア

最後に、吉形先生が産婦人科専門医の観点でおすすめしているフェムゾーンケアについて、大きく分けて2種類の方法を紹介します。いずれも大切なケアですので、ぜひ取り入れてみてください。


フェムゾーン用ソープを使った洗浄

毎日のお風呂でフェムゾーンを洗う際は、何を使っていますか? フェムゾーンは、フェムゾーン用にpHが調整されたソープを使って洗うのが望ましいのですが、体を洗うためのボディソープを使っている方はまだまだ多いようです。アドバンスト・メディカル・ケアが2024年7月に実施した調査でも、全体の7割以上の方が「フェムゾーン用ではないボディソープで洗っている」と回答していました。

たとえ弱酸性のものであっても、体を洗うためのボディソープではフェムゾーンにとって刺激が強く、必要な"良い菌"まで洗い流してしまいます。結果、それがかゆみやニオイ、ムレといったフェムゾーンのトラブルにつながってしまうこともあるのです。そのため、「ボディソープをフェムゾーンに使うぐらいであれば、お湯だけで洗ったほうがいい」とされているほどです。

これまでボディソープでフェムゾーンを洗っていたという方は、フェムゾーン用のソープで優しく洗いましょう。

正しいフェムゾーンケアの方法については、こちらの記事もぜひご覧ください。
フェムゾーンの洗い方は女性の基本知識!医師が教える正しい方法


ラクトバチルス菌の補充

腟内には、"ラクトバチルス菌"という自浄作用を担う菌が存在します。先ほど触れた、フェムゾーンにとって必要な"良い菌"です。

このラクトバチルス菌を適切に補うこともまた、フェムゾーンケアとしてとても大切です。インナージェルや保湿ローションなど、ラクトバチルス菌を取り入れられるフェムケアアイテムが市販されているので、適切に使用してみてください。

ラクトバチルス菌が多いと、腟内環境が正常に保たれて、性病やHPVウイルス、子宮体がんや卵巣がんといったトラブルの要因からフェムゾーンを守ってくれます

ラクトバチルス菌のはたらきについて、より詳しく知りたい方は、同じく吉形先生が解説されている、こちらの記事もご覧ください。
女性の健康と"腟マイクロバイオーム"【JSAセミナー2024レポート:後編】

クリニックで受けられる治療と、セルフケアの2軸でフェムケアを

以上、『わたしをもっと愛そうフェス -Femtech SENDAI 2024-』より、吉形玲美先生による特別講演の内容をお届けしました。

今やPMSや月経痛、更年期症状といった女性特有の不調は「我慢する」時代ではありません。ピルやHRT、エクオールなどの手段によって、つらさを軽減することができます。

また、適切な洗浄とラクトバチルス菌の補充といったセルフケアも大切です。 つらさを我慢せず、クリニックで適切な治療を受けたうえで、フェムゾーンのセルフケアも意識しましょう。お顔をスキンケアするのと同じような感覚でフェムゾーンをいたわることで、トラブルのリスクを下げ、より健康的なフェムゾーンの状態を保つことにつながります。

SUPERVISERこの記事を監修した人

吉形先生

PROFILE

吉形 玲美 (よしかたれみ) 医師

医学博士/日本産科婦人科学会 産婦人科専門医
専門分野:婦人科

産婦人科臨床医として医療の最前線に立ち、婦人科腫瘍手術等を手掛ける傍ら、女性医療・更年期医療の様々な臨床研究にも数多く携わる。女性予防医療を広めたいという思いから、2010年より浜松町ハマサイトクリニックに院長として着任。現在は同院婦人科専門医として診療のほか、多施設で予防医療研究に従事。更年期、妊活、生理不順など、ゆらぎやすい女性の身体のホルモンマネージメントを得意とする。
2022年7月「40代から始めよう!閉経マネジメント」(講談社刊)を上梓。
2023年9月より「日本更年期と加齢のヘルスケア学会」副理事長に就任。

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※掲載している情報は、記事公開時点のものです。
レミ先生の診療日記
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