更年期障害――病院で検査を受けるタイミングとは
ホットフラッシュや手足の冷え、不安感...。更年期障害の症状は多岐にわたるといいますが、いざ自分の身に起こってみると「ちょっと体調が悪いだけかもしれない」などと考え、やせ我慢をしてしまう人が少なくありません。
そこで、更年期障害の相談で病院を訪れた患者さんの症例を基に、病院へ行くべきかどうかのボーダーラインを、浜松町ハマサイトクリニックの医師・吉形玲美先生に教えていただきました。
【Case1】更年期障害――病院に行くかどうかのボーダーラインとは?
H・Yさん(48歳)の場合
【おもな症状ヒアリング】
■眠気が収まらない
1年前くらいから、朝すっきり起きられず、ずっと寝ていたいという気持ちが続いています。仕事がある日はがんばって起きますが、休みの日は起き上がれません。やらなければいけないことがないと、何もしないで夕方まで寝てしまうことも。夕方まで寝ていても、夜は眠れます。
■月経不順
月経周期は、20~27日周期でやや頻発していますが、この1年で不順になってきています。
■強い不安感
ここ数ヵ月、不安感が強いのも気掛かりです。これまでは、どちらかといえばプラス思考でしたが、話をしたときに失礼がないか気になり、人と会うのがおっくうになってしまいました。家族といても気が沈みがちで、一人でいたいと考えてしまいます。
仕事は週3~4日で英語講師をしています。覚えなくてはならないことが覚えにくいと感じることもありますが、気がまぎれるため、仕事に行っているほうが楽しいです。
更年期症状には体と心の2つのタイプがある
――H・Yさんは48歳ですが、どのくらいの年齢の方が受診されることが多いですか?
レミ先生 :40代半ばから60代前半くらいまで、幅広い年齢の方が更年期症状のご相談にいらっしゃいます。最近の傾向としては、40代前半の方が「生理は順調だけれど、発汗や眠りの浅さが気になる...」と受診されることも多いですね。更年期障害の認知が広がるとともに、受診される方の年齢層も広がった気がします。
――今回のケースのように、「いくら寝ても眠気が取れない」というのは、よくある更年期症状のひとつなのでしょうか?
レミ先生 :更年期障害の症状は、大きく分けると「体の症状」と「心の症状」の2つのタイプがあります。両方の症状が出る方もいますし、片方だけが強く出るケースもあります。この患者さんの場合は、「更年期うつ」がベースにあり、心の症状が重いケースでした。
心の症状としては、いくら寝ても寝足りない、不安感がある、イライラのスイッチがすぐに入ってしまう、感情の起伏が激しいなどがよく見られます。一方、体の場合は汗やほてり、上半身が暑いのに手足が冷えるなど、体温調節がうまくできない、また肩こりや頭痛、関節痛などが典型的な症状です。
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月経の変調を見逃さないで
――H・Yさんは、症状を自覚して1年ほど経ってから受診されたようですが、実際にはどのタイミングで受診するのがベストだったのでしょうか?
レミ先生 :1年前から月経周期が不順になり始めているので、本来ならば、それに気付いた時点でお越しいただくのがベストでした。
女性の多くは、更年期障害の症状が出る前に月経の変調が表れます。月経周期が頻発になったり、数ヵ月あいだが空いたり、経血の量が変化したりするんですね。そうした月経の変調が出始めたときに、一度婦人科を訪ねてみることをおすすめします。
婦人科に行く習慣ができていれば、更年期障害の症状が出るようになったときも、医師に気付いてもらいやすくなります。月経の変調を迎えるとともに、安心して頼ることのできる婦人科を見つけておくといいですね。
――生理は、生活が不規則になったり、睡眠不足になったりした場合でも遅れることがあります。更年期障害による月経不順は、そうした生理の遅れとは異なるのでしょうか?自分でも判断することはできますか?
レミ先生 :月経不順が更年期によるものかどうかは、血液検査をしなければわかりません。ただし、患者さんの普段の月経の状況を聞くことで、更年期事由の月経不順なのか、排卵障害などによる月経不順なのか、ある程度は察することができます。
月経変調の傾向としては、卵巣の機能が落ちて、月経が頻繁にくることが挙げられます。しかし、人によってはあまり頻繁にならず、なんとなく月経周期が空いてしまう場合もあります。 月経変調は個人差があるもの。普段から自身の月経周期や経血量をよく観察することで、変化に早く気付くことができるでしょう。
更年期障害の診察と同時に全身のチェックを!
――H・Yさんから相談を受けた後、具体的にどのような検査を行ったのでしょうか?
レミ先生 :H・Yさんに限らず、患者さんから更年期症状に関する相談を受けた場合は、まず日本産科婦人科学会が作成した「更年期症状質問票」に自記式で答えていただきます。その結果を見ることで、体の更年期障害が主体か、心の更年期障害が主体か、あるいは更年期障害ではなく別の病気による不調なのか傾向がわかってきます。加えて「簡易更年期指数」にもお答えいただき、更年期障害の重症度を診ていきます。
その後、血液検査による卵巣機能等のホルモン値の検査を行います。なるべく全身を診たほうがいいので、患者さんの同意が得られれば、生活習慣病に関係する血液検査や骨密度検査、血管年齢検査のほか、婦人科の検査も行います。
40代は、体全体に変調が出てくる年代。更年期障害の診察をする中で、骨密度や血管年齢など、体のウィークポイントも併せて把握することで、生活全体の立て直しにつながります。
Q:H・Yさんは更年期うつの症状が重い傾向がありましたが、症状がわかってからどのような指導を行いましたか?
レミ先生 :心の症状が重く出ている場合は、抗うつ剤を使ったり、安定剤や睡眠を促す薬で心を整えたりするなど、処方する薬の種類が増えます。H・Yさんの場合は、薬をあまり使いたくないということでしたので、女性ホルモンに似た働きをしてくれる「エクオール」を含有したサプリメントを紹介しました。
Q:メンタル症状で、治療によって改善されやすいもの、改善されにくいものをそれぞれ教えていただけますか。
レミ先生 :更年期障害で出やすいのは、「イライラ」や「不安」などのメンタル症状です。特に不安感を感じる方が多いですね。いずれも症状を感じて早い段階のほうが治療によって改善されやすいです。我慢の期間が長く続くと本格的な精神科での治療が必要になることもあり、改善まで時間もかかる傾向にあります。夕方になって日が暮れてくると、心の置き所がないような気持ちになったり、子供の進学や就職などの環境変化で必要以上に心配で不安になったり。自身では対処法がなく困ってしまうのです。
H・Yさんの場合は、更年期うつによる「くよくよ」や「落ち込み」などのメンタル症状も出ていました。しかし、エクオール含有サプリメントを飲み始めて1ヵ月後の受診では、メンタルアンケートの「くよくよ」という項目が大きく改善しました。女性ホルモンは精神状態を安定させる働きがあり、エクオールの女性ホルモン作用により効果が得られたのでしょう。
「いつもと違う」と感じたら更年期外来へ
Q:病院に行くかどうかのボーダーラインはどのように判断すればいいでしょうか?
レミ先生 :セルフケアを続けることで、自分の体の変化がわかりやすくなります。生理が順調にきているときから基礎体温をつけたり、体重を定期的に量ったりするといいですね。
基礎体温表を見ると、グラフの下にコメントを書く欄があります。「生理がしょっちゅうきている」「いつもより経血量が多い」などメモをつけて、普段とは何か違うと感じたら、婦人科や更年期外来に足を運んでみてください。
Q:どんな状態になったら服薬や通院をやめてもいいのでしょうか?
レミ先生 :ホルモン剤や抗うつ剤は、急にやめるとリバウンド症状が出ます。一度症状が良くなっても、薬をやめると悪化することがありますので、医師と相談して少しずつ減らすようにしましょう。サプリや漢方などは、症状が緩和したと思ったらやめても構いません。
レミ先生の診察を受けられる施設はこちら
→浜松町ハマサイトクリニック
→ハイメディック東京日本橋コース
この記事を監修した人
吉形 玲美 (よしかたれみ) 医師
医学博士/日本産科婦人科学会 産婦人科専門医
専門分野:婦人科
1997年東京女子医科大学医学部卒業
産婦人科臨床医として医療の最前線に立ち、婦人科腫瘍手術等を手掛ける傍ら、女性医療・更年期医療の様々な臨床研究にも数多く携わる。女性予防医療を広めたいという思いから、2010年より浜松町ハマサイトクリニックに院長として着任。現在は同院婦人科専門医として診療のほか、多施設で予防医療研究に従事。更年期、妊活、生理不順など、ゆらぎやすい女性の身体のホルモンマネージメントを得意とする。
2022年7月「40代から始めよう!閉経マネジメント」(講談社刊)を上梓。
2023年9月より「日本更年期と加齢のヘルスケア学会」副理事長に就任。