病院での妊活検査とクロミッドを使った不妊治療
「40代で第1子を出産しました」という有名人の話を聞くと、「40代でも問題なく妊娠できる」と思ってしまいがちですよね。でも、いざ妊活を始めてみると、思ったような成果が出ず、精神的に消耗してしまう女性も多いようです。
妊活の相談で病院を訪れた患者さんの症例を基に、妊活プランの立て方やどのようなリスクがあるかなど、30代後半~40代の妊活について、吉形玲美先生に教えていただきました。
【Case2】大人の妊活――本気で取り組む心構え
W・Yさん(36歳)の場合
【おもな状況ヒアリング】
■生理不順
以前は生理周期が30日でしたが、ここ最近は40~50日が続いています。
■30代後半に差し掛かり、妊活に本気で取り組みたい
30代後半に差し掛かり、そろそろ子供が欲しいと思っています。でも、夫は出張が多く、なかなか夫婦で妊活に取り組むチャンスがありません。人工授精なども検討しようかと考えています。
妊活プランに定型はない
――W・Yさんが受診されたときは、どのような検査を行いましたか?
レミ先生 内診と経腟超音波検査(エコー)を行い、基礎体温表をつけるよう指導しました。患者さんが30代でも40代でも、これらの検査や指導は必ず行いますね。生理不順が顕著な方の場合は、採血にてホルモン検査も行います。
W・Yさんの場合は、30代後半という年齢を考えて、「AMH検査」という、排卵できる卵がどのくらい卵巣に残っているかの目安を知るための検査も行いました。こちらも血液検査です。実は、20代の方でも、40代の方と同じくらいの数の卵しか残っていない場合もあるんです。もし、卵の数が残り少なければ、妊活のサイクルをタイトに組む必要があります。
――検査の結果、どのようなことがわかったのでしょうか?
レミ先生 W・Yさんの場合、異常は何も見つかりませんでした。ただ、生理周期が40〜50日と長いのが気になりましたね。そのため、排卵を誘発する「クロミッド」という薬を処方しました。この薬を服用することで、排卵日の予測が立てやすくなるんです。
排卵日を整えるだけで妊娠する人も
――妊活と不妊治療の境界線とは?
レミ先生 妊活というのは、妊娠をするにあたっての基本的な生活の見直しや基礎体温のつけ方・見方の指導、排卵日を予測して夫婦生活を持つタイミングをアドバイスする「タイミング指導」などを指す言葉です。クロミッドなどの薬を処方し、排卵日を整える場合は、不妊治療の領域に入ってきますね。
ほかにも、人工授精や体外受精、顕微授精など、不妊治療にはさまざまな種類があります。不妊治療を行う場合は、専門のクリニックや大きい病院で相談する必要があります。患者さんの要望を聞いた上で、そうした医療機関の受診をすすめることもありますね。
40代からの妊活、まずどうする?
――クロミッドを服用することで、妊娠の確率はどのくらい上がるのでしょうか?
レミ先生 人によります。排卵しにくい状況を放置してきただけでほかに異常がない方であれば、薬で排卵日を整えるだけで妊娠することもあります。排卵誘発の薬にはいくつか種類がありますが、ファーストステップでよく使用するクロミッドは、排卵がうまく誘発できたとしてもあまり長く使うと子宮の内膜が薄くなるので、半年程度服用したら休薬するよう指導します。子宮や卵巣に筋腫があったり、内膜症があったりなど、排卵以外の原因がある場合は、薬を使って排卵しても妊娠しにくいですね。
――検査に行くベストなタイミングは?
レミ先生 内診やがん検診、クラミジア検査は、生理中は避けたほうがいいですね。でも、血液検査によってホルモンのベースラインを知るのは、生理中のほうがいいんですよ。日によって、その日にできる検査とできない検査があるので、妊活開始の検査では、2回は受診するものと考えておくといいかもしれません。
――妊活や不妊治療には、どのくらいの費用がかかるのでしょうか?
レミ先生 クロミッドを処方する場合は、数百円程度です。人工授精は1回あたり数万円ですが、体外受精になると、1回あたり数十万円ほどかかります。それだけ高額になると、経済的に何回治療を受けられるかが決まってきます。自治体の助成を受けられる場合は、どのような条件を満たせばいいのか、どのくらいの金額を受け取れるのかなど、主体的に調べてほしいですね。
妊娠をゴールとせず、子育ても見越して検討を
――40代から妊活をする場合、どのような準備をしておけば良いでしょうか?
レミ先生 40代の患者さんから妊活の相談を受けた場合、自身の生活環境や体の状況について、冷静に検討してもらうようお話しします。「どうしても子供が欲しい」という方と、「自然に授かるなら欲しい」という方とでは、対応が異なりますよね。
「どうしても子供が欲しい」という方には、現実的な側面についてきちんとお話ししてから、不妊治療の専門クリニックに行くよう促します。一方で、「自然に授かるなら欲しい」という方の場合は、バースプランの相談や排卵日診断だけして、あとは様子を見ながらアドバイスするようにしています。
――40代の妊娠は、リスクが大きいと思われがちですが...。
レミ先生 40代の妊娠が「リスクが大きい」といわれているのは、妊娠中に血圧が上がりやすくなったり、腎臓に負担がかかったりする可能性が高いためです。また、流産や早産のほか、染色体異常児の確率も高くなります。
出産後の子育て期の体力も、20代と40代では、当然異なります。子育てと親の介護が重なってしまうことだって考えられますよね。したがって、40代で妊活を始める方には「妊娠をゴールに据えないでほしい」とお話しをすることもあります。
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この記事を監修した人
吉形 玲美 (よしかたれみ) 医師
医学博士/日本産科婦人科学会 産婦人科専門医
専門分野:婦人科
1997年東京女子医科大学医学部卒業
産婦人科臨床医として医療の最前線に立ち、婦人科腫瘍手術等を手掛ける傍ら、女性医療・更年期医療の様々な臨床研究にも数多く携わる。女性予防医療を広めたいという思いから、2010年より浜松町ハマサイトクリニックに院長として着任。現在は同院婦人科専門医として診療のほか、多施設で予防医療研究に従事。更年期、妊活、生理不順など、ゆらぎやすい女性の身体のホルモンマネージメントを得意とする。
2022年7月「40代から始めよう!閉経マネジメント」(講談社刊)を上梓。
2023年9月より「日本更年期と加齢のヘルスケア学会」副理事長に就任。