HRTで行う更年期障害治療――ホルモンを補充することで諸症状を改善
卵巣機能の低下によって女性ホルモンの分泌量が減少し、心身にさまざまな不調が現れる更年期。自覚症状の程度は人によってさまざまですが、女性なら誰もが通る節目の時期です。
今回は、更年期障害を疑って受診した患者さんの症例を基に、更年期障害に有効な治療法である「HRT(ホルモン補充療法)」について、浜松町ハマサイトクリニックの医師・吉形玲美先生に教えていただきました。
【Case4】HRTで行う更年期障害治療――ホルモンを補充することで諸症状を改善
U・Nさん(43歳)の場合
【おもな状況ヒアリング】
■不安感があり、体が動かないことから更年期障害を疑って受診
不安感、体が動かないといった症状で内科を受診しましたが、内科的には問題がないと診断されています。諸症状から、もしかしたら更年期障害ではないかと思って受診しました。なお、心療内科ではうつと診断されています。
■身体的・精神的症状を緩和したい
強い不安感や、つらい体の症状を少しでも改善したいと思っています。
女性ホルモンの補充で更年期障害の症状を改善
――U・Nさんがいらしたときは、どのような検査・診断をされたのですか。
U・Nさんは43歳と比較的若く、生理も定期的にあるので、すぐに更年期障害と診断するのは難しい症例でした。生理前になると心身に不調をきたすPMS(月経前症候群)と診断を受け、低用量ピルを試したことがあるというお話だったので、今回もその可能性を考えて生理の状況を伺った上、女性ホルモンと甲状腺ホルモンの状態を確認するため、血液検査を行いました。
問診では、更年期障害によく見られる症状を点数化して、合計点を出す簡易チェックシートと症状の強さを項目ごとに調べるチェックシートの2つを用いて診断するのが一般的ですが、不安感など精神的な症状が強い場合は、うつの度合いや不安状態を調べるチェックシートも併用します。
U・Nさんの場合、付き添いのご主人から「周囲の人が自分のことを話しているのではないかという不安から、必要以上に人目を気にして自分を苦しめているようだ」というお話があったこと、先に受診していた心療内科でもうつと診断されていたことから、念のため両方のチェックを行いました。
血液検査と問診の結果から、PMSと更年期の狭間にあたる「プレ更年期」のような状態にあると診断し、HRTを始めています。
――HRTとは、どんな治療法なのでしょうか。
HRTは、閉経前からゆらぎはじめ、閉経前に急激に失われる「エストロゲン」という女性ホルモンを補充することによって、更年期のさまざまな症状を改善する治療法です。
エストロゲンが不足すると、皮膚や腟が乾燥したり、骨密度が低下したりといった症状が出るほか、エストロゲンが欠乏することで自律神経が乱れ、突然のほてり(ホットフラッシュ)や発汗、動悸など、いわゆる更年期の症状が起こります。そこで、不足した分のエストロゲンを外部から補ってあげるわけですね。
エストロゲンには、記憶や精神を良い状態に保つ力もありますので、イライラや不安感といった精神的な症状にも有効です。HRTによって活力が戻り、うつが改善されることもあるんですよ。症状を改善するにはエストロゲンだけ補充すればいいのですが、エストロゲンだけを投与すると子宮体がんのリスクが高まるので、「黄体ホルモン」という女性ホルモンも同時に投与する必要があります。
生活スタイルやニーズに合わせて投与の仕方を決定
――具体的には、どのようにホルモンを補充するのでしょう。
飲み薬のほか、貼り薬、塗り薬があります。飲み薬は服用を忘れにくいというメリットがある一方、肝臓で代謝されることで中性脂肪が高くなったり、頻度は低いものの血栓症のリスクが上がるなどのデメリットがあります。そのため、私はまず貼り薬をおすすめすることが多いですね。「ジムなどで人に見られるのが気になる」「貼り替えるのを忘れてしまう」という方や、「貼り薬はかぶれてしまう」という方には、ジェルタイプの塗り薬を処方することもできます。
ただし、ジェルにはエストロゲンしか含まれていないので、子宮を摘出した方以外は黄体ホルモンを飲み薬で摂取しなくてはなりません。ベストな方法は患者さんの生活スタイルやニーズによっても異なるので、ご相談の上で処方の仕方を決定していきます。
――HRTができないケースもあるのでしょうか。
HRTは、科学的根拠に基づいて、更年期障害に対して現時点で最も効果があるとされる治療法ですが、ホルモン治療に抵抗がある方に対して無理におすすめすることはありません。大前提として、「つらい症状が改善されるならやりたい」という方に対して行うものです。
また、脳卒中や乳がんの既往歴がある方は、原則HRTを受けることができません。子宮筋腫がある方も、ホルモンを投与することでさらに大きくなる可能性があるため、筋腫の大きさによっては婦人科の手術を優先してもらう場合があります。治療をしていない子宮内膜症も、閉経後にがん化するリスクを考えて、先に婦人科の治療を受けてもらうことが多いですね。
早い人は1週間で効果を実感
――HRTを使用すると、どのくらいで効果が実感できるのでしょう。
HRTは、使用した効果がわかりやすい治療法です。特にホットフラッシュ、指先やひざなどの関節痛といった身体的な症状は早期に改善を実感できると思います。ほてって汗が大量に出ていた方も、汗が抑えられてよく眠れるようになるなど、使い始めの1~2週間で生活に変化が現れるでしょう。
PMSなど、ほかの疾患に原因がある場合はまったく状態が変わらないこともあるので、効果の有無は1ヵ月を目安に判断することが多いですね。胸が張る、おりものが増える、不正出血があるといったマイナートラブルが起きることがありますが、主治医に相談してホルモンの量を調整してもらうなどして、最適な状態を見つけていきましょう。
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【更年期の症状辞典】大量の汗やほてり...ホットフラッシュとは?
――最後に、「更年期かな」と思っている女性にメッセージをお願いします。
更年期障害は、特にメンタル面の不調において、ある一定のところを超えてしまうとHRTでは改善が見込めず、抗鬱剤など精神科治療にも頼らざるを得なくなります。体調面でも精神面でも、「最近、なんとなくおかしいな」と思うことがあったり、「元気が出ないけど無理してがんばっているな」と感じたりすることがあったら、できるだけ早く婦人科に相談していただきたいですね。
更年期といえば、のぼせやほてり、大量の汗といったホットフラッシュを思い浮かべる方が多いと思いますが、イライラや不安感、うつっぽくなるといった症状もよくあることを知っておいていただけると、ちょっとした変化に気付きやすくなると思いますよ。
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この記事を監修した人
吉形 玲美 (よしかたれみ) 医師
医学博士/日本産科婦人科学会 産婦人科専門医
専門分野:婦人科
1997年東京女子医科大学医学部卒業
産婦人科臨床医として医療の最前線に立ち、婦人科腫瘍手術等を手掛ける傍ら、女性医療・更年期医療の様々な臨床研究にも数多く携わる。女性予防医療を広めたいという思いから、2010年より浜松町ハマサイトクリニックに院長として着任。現在は同院婦人科専門医として診療のほか、多施設で予防医療研究に従事。更年期、妊活、生理不順など、ゆらぎやすい女性の身体のホルモンマネージメントを得意とする。
2022年7月「40代から始めよう!閉経マネジメント」(講談社刊)を上梓。
2023年9月より「日本更年期と加齢のヘルスケア学会」副理事長に就任。