HRT以外の更年期障害の治療――「最善」を見つけるために知っておきたい選択肢
「イライラする」「顔がほてる」「汗が出る」「気分が落ち込む」といった更年期の症状は100種類以上もあるといわれ、表れる症状やその感じ方は、ホルモンバランスや生活習慣などによって大きく異なります。
ほとんど症状を感じずに済む人もいますが、中には日常生活に支障をきたすほどの不調を経験する人も...。更年期に入ってもいきいきと人生を楽しむためには、自分に合った治療法を早めに見つけ、症状とうまく付き合っていくことが大切です。
今回は、HRT(ホルモン補充療法)以外の更年期障害の治療について、浜松町ハマサイトクリニックの医師・吉形玲美先生に教えていただきました。
更年期障害の治療は一人ひとりに合わせたオーダーメイド治療
――更年期障害の治療法には、どのような選択肢があるのでしょう。
更年期の症状を緩和したり、鎮静化したりする治療法として、世界的な標準治療としてまず挙げられるのはHRT(ホルモン補充療法)です。年齢とともに体内から失われていく「エストロゲン」という女性ホルモンを補うことで、更年期のさまざまな症状を改善する治療法ですね。
その代替療法としては、漢方による治療や抗うつ剤・抗不安剤による対処療法、そしてエクオールに代表されるサプリメント摂取などが考えられます。美肌や疲労回復のために使われるプラセンタ注射やプラセンタサプリメントを更年期治療に使用する例もありますね。
一般的には、保険診療である漢方薬での治療が知られているのではないでしょうか。
――どの治療法を選ぶかは、問診や検査の結果によって決まるのですか。
当院の場合、さまざまな更年期の諸症状に最も効果のある代表的な治療法として、まずはHRTをご紹介します。その上で、ホルモン治療に抵抗がある方に対しては、代替療法で合うものを探すという流れですね。脳卒中や心筋梗塞など、ホルモンを補充することでリスク増が考慮される病気や、血栓症、乳がんの既往歴がある方も、代替療法の対象になります。
できるだけ早く症状をやわらげたいのか、緩やかに改善していけばいいのかといった、患者さんのご希望によっても治療法が異なります。ホルモン剤が比較的スピーディに効果を感じられるのに対し、漢方薬やサプリメントは緩やかに働きかけるという違いがあるからです。
――複数の治療法を併用することはできますか。
HRT、漢方薬、抗うつ剤、サプリメントはそれぞれ特徴が異なるため、いずれも併用することができます。全部の治療法を試してもいいですし、薬を使いたくないならエクオールとプラセンタを併用して様子を見てもいいでしょう。
メンタル面の症状が強い方の場合、HRTと同時に抗うつ剤を使うこともあります。患者さんのご希望と症状を総合的に判断して治療法を決定しますが、経過を見ながら薬を変えたり追加したりして、ベストな方法を探ることも多いんですよ。一人ひとりの症状に合わせて、オーダーメイドで治療をデザインしていくイメージですね。
治療法の種類と特徴を知っておくと、自分のベストを見つけやすい
――治療法ごとに、適応する症状に違いはありますか。
HRTは、更年期障害の中でも特に血管運動神経系の症状に速やかに効くため、発汗やほてりがつらい方にまずおすすめします。そのような症状よりも、イライラや疲れ、冷えなどの症状が強い場合は、サプリメントや漢方をいっしょに提案することが多いですね。
何がどのくらい効くかは患者さんによって大きく異なり、HRTで効果を感じられない方もいる一方で、サプリメントだけで改善して楽になったという方もいます。病院に行かずに、まずはセルフメディケーションを希望されるなら、サプリメントがおすすめです。3ヵ月から半年間試して、症状が改善されなければ受診することをおすすめします。
――先生が早くから臨床研究に携わってこられたエクオールについて、教えてください。
大豆イソフラボンには、女性ホルモンのような働きをする「女性ホルモン様(よう)作用」があり、更年期症状を緩和するとよくいわれていますよね。ところが、近年の研究によって、その女性ホルモン様作用をもたらしているのは、大豆製品を食べたときに大豆イソフラボンが腸内細菌の力で作られる、エクオールという成分であることがわかりました。
ただ残念なことに、体内でエクオールを作ることができる体質の方は、日本人の約3人に1人しかいません。しかし、エクオールを生産できない体質の方も、直接エクオールを取り入れることができるサプリメントを摂取することで、女性ホルモンに似た働きをする成分を補うことができるんです。
エクオールのサプリメントは、更年期以降、急激に減少する女性ホルモンをサポートするという点で、ホルモン剤と非常によく似ています。しかし、ホルモン剤に比べ緩やかに働きかけ、安全性が高いという特徴があります。
抗酸化作用や血管をしなやかにする作用、骨密度減少の抑制といった副次的な効果も期待できるので、40歳代以降を目安に飲み始めるといいですね。来る更年期に備えたいという方は、妊活が終わった段階で服用をスタートするようにしてください。
――更年期障害に悩む人、予防したいと思っている人に、メッセージをいただけますか。
ご紹介したように、更年期障害にはさまざまな治療法があります。つらい更年期の諸症状を乗り切るには、自分の症状と体質に合った治療法を見つけることが大切。特に症状が強い方や、複数の症状に悩んでいる方は、できるだけ早く更年期障害に詳しい先生に診てもらいましょう。
治療法の種類や、どのような特徴があるかを知った上で受診すると、より相談しやすくなると思いますよ。
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この記事を監修した人
吉形 玲美 (よしかたれみ) 医師
医学博士/日本産科婦人科学会 産婦人科専門医
専門分野:婦人科
1997年東京女子医科大学医学部卒業
産婦人科臨床医として医療の最前線に立ち、婦人科腫瘍手術等を手掛ける傍ら、女性医療・更年期医療の様々な臨床研究にも数多く携わる。女性予防医療を広めたいという思いから、2010年より浜松町ハマサイトクリニックに院長として着任。現在は同院婦人科専門医として診療のほか、多施設で予防医療研究に従事。更年期、妊活、生理不順など、ゆらぎやすい女性の身体のホルモンマネージメントを得意とする。
2022年7月「40代から始めよう!閉経マネジメント」(講談社刊)を上梓。
2023年9月より「日本更年期と加齢のヘルスケア学会」副理事長に就任。