妊活にも影響する子宮腺筋症――受診時は「妊娠の目安」を伝えることが大切
子宮腺筋症、子宮内膜症、子宮筋腫の3つは、月経過多や月経痛といった月経トラブルを引き起こす代表的な疾患です。中には症状が軽いケースもありますが、重い症状に苦しみ、生活に支障をきたす女性も珍しくありません。
特に子宮腺筋症は、月経量・月経痛ともに非常に重く、進行すると排便痛や性交痛なども伴うつらい病気です。また、妊娠を希望するかどうかが治療法の選択に大きく関わってくるため、ライフプランにも大きな影響を及ぼします。
【Case7】子宮腺筋症――受診時は「妊娠の目安」を伝えることが大切
F・Kさん(初診時38歳)の場合
【おもな状況ヒアリング】
■月経過多、月経不順に悩み受診
月経の量がとても多く、毎回レバー状のかたまりが出て、大きなナプキンをしていても30分と持たないことがよくあります。月経痛も次第に重くなってきていて、このままでは仕事やプライベートに支障があるため受診しました。月経周期もやや短く、不順です。■月経に伴う諸症状を少しでも軽減したい
月経量や月経痛をコントロールし、生活への影響を軽減したいと思っています。いずれは妊娠したいという希望はありますが、パートナーとも相談し、今すぐにとは考えていません。
混同しやすい子宮腺筋症、子宮内膜症、子宮筋腫
――F・Kさんが初診時に訴えている月経過多や月経不順は、さまざまな疾患に共通するものですね。
今回のテーマである子宮腺筋症をはじめ、子宮内膜症、子宮筋腫は、30代から40代以降に多く見られる良性疾患で、どれも月経痛や月経過多といった症状を伴います。さらに、子宮腺筋症と子宮内膜症は病態が似ており、子宮腺筋症と子宮筋腫は発症する場所や子宮が腫れるなどの症状が似ているので、混同されやすいんですよ。
――3つの疾患の特徴と違いを教えてください。
子宮腺筋症は、子宮内膜に似た組織(子宮内膜様組織)が子宮の壁(筋層内)にでき、はがれ落ちることなく内部に溜まり続けた結果、子宮の壁が厚くなることによって起こる疾患です。経血の量が増えて月経痛が重くなるほか、進行すると月経以外のときも腹痛が生じたり、排便痛や性交痛があったりして生活の質を著しく損ないます。
子宮内膜症は子宮腺筋症と同様に、子宮内膜に似た組織が、本来あるべき子宮内膜ではなく卵巣や骨盤の中にできて、増殖と剥離を繰り返します。子宮腺筋症とは発生する場所が違うだけで、病態は同じですね。月経が重く経血が多いという症状も同じですが、骨盤内の広範囲、卵巣内にも病変が広がりやすく、ひどくなると腸や膀胱など周辺の臓器と癒着(ゆちゃく)することもあります。
一方、子宮筋腫は、子宮の筋肉の中にできる腫瘤(しゅりゅう)です。子宮腺筋症や子宮内膜症がベタベタと癒着するのに対し、筋腫はツルッとしており病態がまったく異なります。
ただ、子宮の中に発生する、子宮が腫れて大きくなる、経血が多いといった類似点もあるので、間違えやすいのでしょう。いずれも、エコー検査やMRIを行えば確実に鑑別することができます。
妊娠希望の有無によって治療方針は大きく変わる
――F・Kさんのように妊娠を希望されている場合、治療方針に影響はあるのでしょうか。
受診した時点で、手術するほどの状態(一般に子宮がこぶし大以上)でなければ、クリニックでの通院治療となります。程度が軽ければ、月経痛に対しては鎮痛剤や漢方薬、貧血に対しては鉄剤といった対症療法からスタートします。
対症療法で月経痛や月経量が改善しなければ、低用量ピル(保険適応されているLEP配合薬を含む)を使用したり、黄体ホルモン剤やGnRHアゴニスト・アンタゴニスト製剤などのホルモン治療に切り替えたりします。ホルモン治療の作用と目的は、排卵を休止させることで女性ホルモン(エストロゲン)の分泌を低下させ、病気の原因となる「子宮内膜症に似た組織」の増殖を抑えることです。
これらの治療を行っても症状が改善しなければ、手術(おもには子宮を全摘出)することになりますが、ホルモン治療法を組み合わせて病状とうまく付き合っていけば、閉経まで手術せずに過ごすことも可能です。
ただし、妊娠を希望している場合は、排卵を休止させるホルモン治療も手術も行えませんから、鎮痛剤や漢方などの投薬を続けて慎重に経過を観察していくことになります。F・Kさんの場合、低用量ピルからスタートして、妊娠の希望が強まった時点で鎮痛剤に切り替え、定期的な診察を続けました。
――妊活が先か、治療が先か、悩ましいところですね。
子宮腺筋症を発症する年代は、ちょうど妊活世代ですから、判断が難しいですね。妊娠を強く希望しているなら、薬で良い状態に持っていったところで妊娠が成立して早期決着というのが、最も望ましいと思います。
排卵が止まる妊娠は、子宮腺筋症に対する最善の治療法ともいえます。子宮腺筋症は、閉経まで進行していくため、将来妊娠を希望しているならパートナーとよく話し合い、早めにライフプランを立てることをおすすめします。
早期発見で妊娠のタイミングを逃さない
――医師と相談しながら、状況に応じて適切な治療をすることが大切ですね。
子宮腺筋症は、先にも述べたとおり、閉経を迎えるまでは進行を続ける病気です。毎月つらい思いをしながら耐えているうちに進行していた...ということにならないよう、月経時の経血の量、およびそれに伴う貧血、月経痛などが「以前に比べてひどくなっている」「なんとなくいつもと違う」と感じたら、なるべく早く婦人科を受診しましょう。
特に妊娠を希望している場合、アクションの遅れは、不妊や妊娠する確率の低下につながります。早期受診、早期診断と治療によって生活の質を保つとともに、妊娠のタイミングを逃さないことが大切です。
――婦人科を受診するときの注意点があれば教えてください。
年齢や症状の程度に加えて、妊娠希望の有無は、子宮腺筋症の治療法を選択する上で非常に重要な情報です。
婦人科では「妊娠したいかどうか」だけでなく、「パートナーはまだいないけど、将来的には妊娠を希望している」「できるだけ早く子供がほしい」といった希望の程度や希望する妊娠の時期まで伝えられると、医師もより適切な治療法を提案しやすいと思います。パートナーがいる場合は受診前に相談して、考えをまとめておくといいですね。
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この記事を監修した人
吉形 玲美 (よしかたれみ) 医師
医学博士/日本産科婦人科学会 産婦人科専門医
専門分野:婦人科
1997年東京女子医科大学医学部卒業
産婦人科臨床医として医療の最前線に立ち、婦人科腫瘍手術等を手掛ける傍ら、女性医療・更年期医療の様々な臨床研究にも数多く携わる。女性予防医療を広めたいという思いから、2010年より浜松町ハマサイトクリニックに院長として着任。現在は同院婦人科専門医として診療のほか、多施設で予防医療研究に従事。更年期、妊活、生理不順など、ゆらぎやすい女性の身体のホルモンマネージメントを得意とする。
2022年7月「40代から始めよう!閉経マネジメント」(講談社刊)を上梓。
2023年9月より「日本更年期と加齢のヘルスケア学会」副理事長に就任。