「腟萎縮」はなぜ起こる?閉経後のデリケートな悩みの解消法

閉経に向かって女性ホルモンが減少し始めると、体にさまざまな不調が生じるほか、肌の潤いが低下して、たるみやシワなどのトラブルにつながることはよく知られています。実は、こうした水分量の低下は、肌に限ったことではありません。閉経を迎えると、肌と同じように腟も乾燥し、次第に萎縮して不快な症状を引き起こしたり、性交痛を生じたりする可能性があります。

今回は、性交痛で受診した方の症例を基に、誰にでも起こりうる閉経後のデリケートな悩み「腟萎縮」について、浜松町ハマサイトクリニックの医師・吉形玲美先生に教えていただきました。

【Case8】腟萎縮――誰にでも起こる閉経後の悩み

Y・Tさん(初診時53歳)の場合

【おもな状況ヒアリング】

■更年期障害に加え、性交痛に悩み受診

35歳のとき、婦人科疾患で子宮と卵巣を摘出して人工閉経し、他院にてHRT(ホルモン補充療法)を16年間実施しました。その後、当時の主治医からHRT長期投与によるリスクの説明を受けて中止。エクオールやプラセンタのサプリを試したものの、次第に性交痛がつらくなり、悩んだ末に受診しました。

■夫とのコミュニケーションに影響しないよう、性交痛を改善したい

このままだと夫とのコミュニケーションに影響が出かねないので、性交に伴う痛みを解消したいと思っています。夫には、性交痛に悩んでいることを知られたくありません。

腟萎縮は、すべての女性に起こる可能性がある

――Y・Tさんは、他院で16年間実施したHRTを中止した後、性交痛が生じて受診されたのですね。

当時の主治医から、HRTを長期間実施することによるリスクの説明があり、卒業をすすめられたようですね。51歳になって平均的な閉経年齢に入り、骨やホルモンのサポートは十分にできているという判断での中止だと思います。

そこからは、ご自分で工夫してエクオールやプラセンタサプリを試していたようですが、次第に腟の潤いが低下して腟壁が乾いて硬くなり、腟萎縮が起きて性交痛を感じるようになったということでしょう。

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――腟萎縮は、誰にでも起こりうるものなのでしょうか?

閉経後の女性なら、誰にでも起きる症状です。ただ、分娩歴やパートナーの有無によって程度の差はありますね。ホルモンの状態が同じでも、パートナーがいて、ある程度、性生活が保たれている方のほうが、腟の状態はいいというのが診察における実感です。分娩回数が多い方も同様ですね。

逆に、ほとんど腟にふれていない、使っていないという方は、診察の機械はおろか内診で指を入れることすら難しいほど萎縮していることがあります。

炎症悪化や細菌感染のリスク、パートナーシップへの影響も大きい

――Y・Tさんは性交痛で受診されていますが、腟萎縮の場合、何がきっかけで受診される方が多いのでしょう。

一般的に、Y・Tさんが受診された53歳くらいの年齢なら更年期障害が多く、性交痛はもう少し上の年齢の方に見られる訴えです。パートナーがいない場合、「腟が痛い」「しみる」「切れたような不正出血がある」といった症状が出て受診されるようですね。腟が乾くと雑菌が繁殖しやすくなるので、カンジダなどを発症してかゆみを訴える方もいらっしゃいます。

――受診が遅れることによるリスクがあれば教えてください。

腟萎縮をそのままにしておくと、「腟内の炎症や細菌感染の悪化」と「性生活への支障」という、大きく2つの影響があります。

特に後者は、パートナーとの関係が悪化する原因になり、その後の生活を左右することにもなりかねません。日本ではまだタブー視されているところがありますが、パートナーシップへの影響を重視する外国では、とてもオープンに性交痛の問題を取り上げています。CMなどでも広く周知を促していますし、お薬の種類もとても多いんですよ。

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レーザーによる根本治療は新たな選択肢のひとつ

――腟萎縮の治療は、どのように行われるのですか。

ホルモン治療に対する抵抗がなく、50代に入っていれば、年齢とともに失われていく女性ホルモン「エストロゲン」を補充するHRTと、女性ホルモン成分が入っている外用剤(=腟剤)が最初の選択肢です。Y・Tさんの場合は、長年HRTを行って中止したという経緯がありましたし、腟に潤いを与えて性交痛を軽減するリューブゼリーなどの潤滑ゼリーの使用はご主人の目が気になるとのことでしたので、腟剤を処方しました。

この錠剤は、腟の中に挿入することによって粘膜の炎症を改善し、腟萎縮を根本的に治療するものです。自分で挿入できる方なら、症状が出たときに自宅で使っていただきますが、自力での挿入が難しい方は受診していただき、内診台で入れることも可能です。

――新たな治療法も出てきているそうですね。

近年、選択肢のひとつとして注目されているのが、顔のたるみの改善やリフトアップのために使われてきた技術を腟壁に応用した、炭酸ガスレーザーによる治療です。腟内に専用の機械を挿入し、専用のレーザーを数分間照射して刺激を与え、腟粘膜の細胞を活性化させて厚みや潤いを取り戻します。

施術中は多少違和感がある程度で、痛みや出血はほとんどなく、1回である程度の効果を実感できることがメリットですね。すでに、海外ではスタンダードな治療になりつつあり、今後は国内でもさらに広がっていくと思います。

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照射イメージ
出典:モナリザタッチ®

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施術前、施術後の腟の粘膜上皮の変化
出典:モナリザタッチ®

――腟萎縮を予防するために注意すべきことや、セルフケア方法はありますか。

腟を清潔に保つことは重要ですが、洗いすぎは禁物です。一般のボディソープや石鹸は洗浄力が強いので、フェムゾーン専用の洗浄剤を使うといいですね。流すときはぬるめのお湯を使って、優しく丁寧に流すようにしましょう。

なお、フェムゾーン専用のケア用品を購入する際は、用途をしっかり確認することが大切です。洗浄ではなく、黒ずみやにおいのケアを目的とした物は刺激が強いので、間違って使うと逆効果になってしまいます。

――デリケートな部分の悩みだけに、違和感があっても相談しにくいという方も多くいるような気がします。

そうですね。腟萎縮と思われる痛みやかゆみ、性交痛の症状があっても、恥ずかしくてなかなか相談しにくいという方は多いと思います。でも、婦人科の医師からすれば、とてもありふれた疾患ですし、よくある悩みなんですよ。

違和感やつらい症状の原因が腟萎縮だとわかれば、適切な治療で状態を改善することができます。我慢しすぎず、早めにご相談ください。


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浜松町ハマサイトクリニック
ハイメディック東京日本橋コース


SUPERVISERこの記事を監修した人

吉形先生

PROFILE

吉形 玲美 (よしかたれみ) 医師

医学博士/日本産科婦人科学会 産婦人科専門医
専門分野:婦人科

1997年東京女子医科大学医学部卒業
産婦人科臨床医として医療の最前線に立ち、婦人科腫瘍手術等を手掛ける傍ら、女性医療・更年期医療の様々な臨床研究にも数多く携わる。女性予防医療を広めたいという思いから、2010年より浜松町ハマサイトクリニックに院長として着任。現在は同院婦人科専門医として診療のほか、多施設で予防医療研究に従事。更年期、妊活、生理不順など、ゆらぎやすい女性の身体のホルモンマネージメントを得意とする。
2022年7月「40代から始めよう!閉経マネジメント」(講談社刊)を上梓。
2023年9月より「日本更年期と加齢のヘルスケア学会」副理事長に就任。

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