性交痛など更年期世代の性生活の悩みは、婦人科に相談!
心身にさまざまな変化が起きる更年期世代の女性は、性生活においても変化が現れやすい時期。性交渉において、これまでにない痛みを感じて苦手意識が高まる人もいれば、急激に性欲が高まる人もいるといいます。
しかし、性の話題を公に話すことをタブー視する傾向が強い日本人女性は、たとえ「これっておかしいのかな?」と思うことがあっても、「恥ずかしい」が先立って、人に相談できないまま悶々と日々を過ごしてしまいがち。本来であれば改善・治療できるにもかかわらず、年齢のせいだから仕方ないと思っている人も少なくないでしょう。
新しいライフステージをいきいきと過ごすために、よくある悩みとその対処法、理想的な性生活を実現するパートナーとの関係の在り方について、浜松町ハマサイトクリニックの医師・吉形玲美先生に教えていただきました。
性欲減退の理由として最も多いのは「性交痛」
――フェムゾーンや骨盤臓器脱の悩みと同じように、性生活の悩みも人に相談しにくいですね。
日本人女性の意識はまだまだ保守的で、どうしても羞恥心が先に立ってしまいますよね。フェムゾーンに明らかなトラブルがあっても、「治療すべきもの」としてアクションにつなげる人が少ないくらいですから、性生活の悩みとなればなおさらかもしれません。
「婦人科は病気を診てもらうところ」と考えている方にとっては意外かもしれませんが、性交痛や性欲の増減といった悩みは、婦人科で解決できることが多いんですよ。
実際、そうした知識がある方は
・性交時に痛みがあってつらい
・性欲がわかない
・性欲があって困っている
といった相談で受診されています。市販の潤滑ゼリーなどで自己流のケアをしながら我慢して性生活を続けていたり、自分がおかしいのかもしれないと一人で悩んでいたりする場合は、ぜひ「婦人科を受診する」という選択肢を知っていただきたいですね。
――性欲は、減退する人もいれば増進する人もいるのですね。
そうですね。性欲は個人差が大きく、減退しても増進してもおかしくありません。低下する理由として最も多いのは、性交渉の際の痛み。この性交痛は、萎縮性腟炎が関係しています。
更年期に入り、女性ホルモンのエストロゲンが減少すると、腟の中を正常な酸性に保つグリコーゲンも減少し、腟の自浄作用が弱まって潤いが失われていきます。この状態が進むと、腟内が萎縮したり乾燥したりし始め、雑菌が繁殖して萎縮性腟炎を引き起こすのです。
萎縮性腟炎になると腟壁が薄くなるので刺激に弱くなり、ちょっとしたことで痛みや違和感を生じることも。性交痛が起こるのもそのためです。
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加齢や出産、肥満などの影響で腟がゆるみ、パートナーに指摘されてから性交渉を敬遠するようになるケースもありますね。
男性ホルモンが優位に働くと、性欲が増進することも
――一方で、性欲増進にはどのようなメカニズムがあるのでしょう。
性欲が増進する背景には、男性ホルモンのテストステロンの存在があります。男性ホルモンは男性だけに関係するものと思っているかもしれませんが、実はそうではありません。女性の体内にも男性ホルモンは分泌されていて、女性も骨格や筋肉の成長などにおいて、その恩恵を多分に受けているんです。
元々の体質で男性ホルモンの分泌量が多い人は、更年期に入って女性ホルモンが減った段階で男性ホルモンが優位に働き、性欲が高まる場合があります。ただ、男性ホルモンがどこに影響するかは人それぞれ。中には、男性ホルモンによって体毛が濃くなる人もいて、必ずしも性欲が高まるわけではありません。
――精神面の変化も影響するのでしょうか?
性生活は充実しているものの、妊娠しないよう常に避妊を気にしていたような方は、閉経して妊娠の心配がなくなることによって、抑えていた性欲が急激に高まることがあります。
以前、40代後半でまだ生理がある方が、「これから妊娠・出産する気はないけど、生理がまだあって性生活も充実しているので、避妊すべきか悩む」と相談に来られました。「妊娠するつもりがないなら避妊を」とアドバイスしましたが、こうした方は閉経を「避妊しなくて良くなった」と捉えて、より前向きに性生活を楽しむようになるのではないでしょうか。
――パートナーとの性欲の程度に差が生まれて、コミュニケーションに悩む人も多そうです。
男性も女性と同様、年齢を重ねるにつれてテストステロンが少しずつ減少していきますが、女性と違ってその減少速度はゆるやかで、しかも完全になくなるわけではありません。そのため、急激に性欲が減退し、「そういう気分になれない女性」とのあいだに意識の差が生まれて、性生活がうまくいかなくなる可能性は十分に考えられますね。
反対に、テストステロンの増加で性欲が驚くほど増進し、パートナーの男性の性欲を追い越してしまって悩む女性もいます。
■男性・女性それぞれの性ホルモンの、加齢による変化
パートナーの理解と適切な医療的ケアで、幸せな性生活を
――性交痛がつらく性生活に後ろ向きな場合、どのような治療を行うのですか?
萎縮性腟炎による性交痛には、腟坐薬、ホルモン補充療法(HRT)、レーザー治療といった治療を行います。
<萎縮性腟炎による性交痛に対する治療法>
・腟坐薬:エストロゲンを含有する腟坐薬を挿入して、腟粘膜の炎症を改善します。
・ホルモン補充療法(HRT):症状が重かったり、ほかの更年期症状も出ていたりする場合には、ホルモン補充療法(HRT)をおすすめしています。HRTと腟坐薬を併用する場合も。
・レーザー治療:腟内に専用のレーザーを照射して粘膜を活性化させます。
特に、更年期障害も強い方はHRTを行うことで女性ホルモンが安定し、更年期症状が軽くなれば、精神面や性欲の落ち着きも期待できるでしょう。
また、フェムゾーン専用のケア用品を使うことも、腟の状態を整えてくれます。というのも、フェムゾーンのトラブルには、「腟内フローラ」を良好に保つことがとても大切なんです。あまり知られていませんが実は、腸と同じように、腟にも良い菌と悪い菌がいるんですよ。腟内フローラが良好な状態とは、腟内にラクトバチルス属を主とした乳酸菌が豊富であることを指します。
フェムゾーンを洗う際は、乳酸菌の入ったフェムゾーン専用の洗浄料と、洗浄後には専用の保湿ジェルやクリームを使うことで、腟のうるおいが保たれるだけでなく、腟内フローラの改善が見られることが最新の研究でわかっているんです。
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ただ、フェムゾーンケアにおいては、洗浄力の強いボディソープを使うと腟のバリアまではがしてしまう可能性があります。洗い方とともに正しいケア方法を知ることも大切ですよ。
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出産経験が多い方や肥満の方に多い腟のゆるみは、骨盤内にある子宮や膀胱、直腸などが少しずつ下に落ちてきて、外陰部から外に出てしまう「骨盤臓器脱」につながる可能性もあるので、骨盤底筋を鍛える「ケーゲル体操」をおすすめします。
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■ケーゲル体操
1. ひざを立てて床に仰向けになり、おなかとお尻を上に持ち上げて、「腟と肛門を5秒ぎゅっと締める→10秒ゆるめる」を5回繰り返す。
2. 「1」の「締める→ゆるめる」を速いペースで5回繰り返す。これを1セットとして、1日5〜10セットを毎日行う。
ケーゲル体操は、仰向けにならなくても、椅子に座っても、四つん這いの姿勢でも、立ったままでもOKです。
――性生活に悩む更年期世代に、アドバイスをお願いします。
更年期以降を幸せに生きるために、性生活の悩みはできるだけ早く解決したいもの。できれば、パートナーとしっかり話し合える関係を築いて、お互いがどうしたいかを理解し合うようととても良いですね。そうすれば心が満たされて幸せホルモンも増え、性生活にも良い影響があるかもしれません。
お互いの体の変化をパートナーと共有し合って、より良い性生活のために取り組んでいきましょう。
レミ先生の診察を受けられる施設はこちら 吉形 玲美 (よしかたれみ) 医師 医学博士/日本産科婦人科学会 産婦人科専門医
1997年東京女子医科大学医学部卒業
→浜松町ハマサイトクリニック
→ハイメディック東京日本橋コース
この記事を監修した人
専門分野:婦人科
産婦人科臨床医として医療の最前線に立ち、婦人科腫瘍手術等を手掛ける傍ら、女性医療・更年期医療の様々な臨床研究にも数多く携わる。女性予防医療を広めたいという思いから、2010年より浜松町ハマサイトクリニックに院長として着任。現在は同院婦人科専門医として診療のほか、多施設で予防医療研究に従事。更年期、妊活、生理不順など、ゆらぎやすい女性の身体のホルモンマネージメントを得意とする。
2022年7月「40代から始めよう!閉経マネジメント」(講談社刊)を上梓。
2023年9月より「日本更年期と加齢のヘルスケア学会」副理事長に就任。