男子校で性教育「もっと話そう!Hello Femtech」正則学園高等学校での公開授業をレポート!【前編(全2回)】

2024年8月29日、正則学園高等学校(東京都)にて、株式会社宝島社主催の「もっと話そう!Hello Femtech」プロジェクトの一環として、産婦人科医の吉形玲美先生による特別授業が実施されました。
男子校での、産婦人科医による性教育という貴重な機会となった今回。
前後編に分けて、当日の様子をお届けします!

2024年8月29日、正則学園高等学校(東京都)にて、株式会社宝島社主催の「もっと話そう!Hello Femtech」プロジェクトの一環として、産婦人科医の吉形玲美先生による特別授業が実施されました。
男子校での、産婦人科医による性教育という貴重な機会となった今回は、当日の様子を前後編でお届けします!

ミニコラム:正則学園高等学校について

今回の会場となった正則学園高等学校は、明治29年に『正則英語学校』として始まった、東京都千代田区にある全日制の男子校です。
「師弟一体となって礼儀正しく正義を愛し、人道を重んじる」ことを理念として掲げており、心を育む進学クラスと、心を鍛えるスポーツクラスが設けられています。

今回の特別授業には、生徒会のメンバーとボランティアを含む、2・3年生の計15名が出席しました。
授業に出席した生徒さんたちは、このあと『異性に関する正しい知識を持っているか』というテーマで全校生徒にアンケートを実施し、その調査結果を11月の文化祭で発表する予定です。
授業中は、みなさん吉形先生のお話に対してうなずきつつメモをとっており、真剣に向き合う様子がみられました。

「もっと話そう!Hello Femtech」プロジェクトに込められた想い

最初にお話ししてくださったのは、株式会社宝島社でファッション雑誌『大人のおしゃれ手帖』編集長を務めている橘 真子さん。
特別授業を始めるにあたり、本プロジェクトに込めた想いを語っていただきました。


女性の生きづらさを解消するには、男性からの理解が重要

株式会社宝島社は、下は10代から上は60代まで、幅広い世代の女性を対象に、合計10誌の雑誌を発行しています。
雑誌を作るにあたり、世の中の女性の声を聞くと、年代を問わず「女性ならではの生きづらさを感じる」「世の中の女性・男性がお互いについて理解しあえたら、生きやすいのに」と話す方が多いのだそうです。
そこで、「雑誌を通して情報を発信している、宝島社だからこそできることを」という想いで女性誌10誌に男性誌2誌を加えた全12誌合同の「もっと話そう!Hello Femtech」プロジェクトが立ち上げられました。

「大切なのは、女性だけが意識を改善するのではなく、男性から女性への理解も深めること。お互いにとって良い社会を作ることが大事」と話す橘さん。
その考えが、男子校での性教育という、今回で4回目の実施となる企画に至りました。


女性がつらさを我慢しない世の中をつくるために

橘さん:性の話題は、タブー視されていて、口に出すのがはばかられる......という風潮があります。そうではなくて、もっとみんなが話しやすい環境を作っていこうよ! というのが、「もっと話そう!Hello Femtech」プロジェクトの趣旨です。

そう語る橘さんは、『大人のおしゃれ手帖』読者に実施した、更年期に関するアンケートの結果を見せ、更年期の女性の"リアル"を生徒さんたちに解説します。

橘さん:多くの女性が、だるさや肩こり、不眠など、更年期に6つ以上もの不調を経験しています。そして4割近くの女性がそのつらさを我慢して、対策を行っていないんです。これまでの時代背景もあって、そういったつらさを「誰かに相談したり、病院でお金を払ってまで解決することではない」と考えている女性が多いんですね。みなさんのお母さんたちは、おそらくそうだと思います。
でも、そういったことは自分で抱え込まず、頼れるものはどんどん頼っていいんです。
女性同士で、自身のからだについて「あなたはこんなことをしているんだ。私もやってみようかな」と話す機会がもっと増えれば、"みんなが生きやすい社会"を実現できると思います。


"みんなが生きやすい社会"を実現するには、未来を担っていく世代が、正しい知識をつけることが大切です。
みなさんに知識を持っていただくことで、日本の未来がきっと変わっていくだろう、という期待を込めて――

橘さんの切実な想いが、生徒さんたちの胸に届いたところで、いよいよ特別授業の開講です。

吉形玲美先生による授業がスタート

続いて、産婦人科医の吉形玲美先生が"女性の健康課題"というテーマを掲げた理由を伝えました。

吉形先生:"セックス"と"ジェンダー"という言葉があります。性別、つまりセックスのうえに文化的・社会的な背景が加わったのがジェンダーです。たとえば「男なんだからこうしなさい」「だから女性は○○なんだよね」といった意見は、ジェンダー的な視点にあたります。
しかし「女性のからだにはこんなことが起きているという事実を知ると、そういったジェンダー的な考え、言い換えると"アンコンシャスバイアス(無意識の偏見・思い込み)"は変わるはずです。


女性に対するアンコンシャスバイアスを変える一助として、今回は生理や更年期をはじめとした"女性の健康課題"を扱う、ということをお話しいただきました。

※以降、本記事では授業の内容に準拠し、月経を"生理"と表記いたします。


女性ホルモンの役割は、生殖に関することだけではない

男性の生徒さんが、女性のからだに関する知識を"自分ごと"として捉えるために、まずは男女のからだの違いを知ることが大切です。
吉形先生からは、生理や更年期といった女性のライフステージごとの健康問題や、男性ホルモン・女性ホルモンの役割についてお話がありました。

吉形先生:女性は更年期を迎えると、体内の女性ホルモンが減っていきます。おそらくみなさんは女性ホルモンに対して、生理を起こすとか、赤ちゃんを作るときに必要......というイメージがあると思うのですが、それだけではないんです。
女性ホルモンは全身に影響を与えているので、加齢によって減少すると、骨量が減少したり、血管が老化したり、認知症のリスクが高まるなどの健康問題を引き起こします。
なので、認知症の患者さんは男性よりも女性のほうが多いんですよ。


さらに、吉形先生は「実は男性も女性ホルモンを持っているし、女性も男性ホルモンを持っている」と話します。

吉形先生:なんと中高年世代になると、女性よりも男性のほうが、女性ホルモンがずっと多くなるんです。よく冗談で「歳をとると、男の人はおばさん化して、女の人はおじさん化する」なんて言いますが、性ホルモンの観点では本当なんですよね。

また女性ホルモンの量の変化によって、女性のからだは骨折の原因にもなる骨粗しょう症のリスクが高くなるので、男性よりも"寝たきり"になってしまう方が多いのだそうです。
生殖にかかわる部分に限らず、健康面でも男女のからだには違いがあるというのは、今回初めて知った生徒さんも多かったのではないでしょうか。


生理前のイライラは、ホルモンのせい

女性のからだについて知るうえでは欠かせない、生理。
授業では、初経の時期や生理痛、また月経困難症をはじめとするトラブルなど、生理に関する大切な情報がとても詳しく解説されました。

初経の年齢は、10~15歳が標準とされています。
「みなさんと同年代の女の子たちは、生理が始まっています。妹さんがいる方は、話してみるといいかもしれませんね」と、生徒さんたちが生理を身近に感じるきっかけとなるアドバイスも。

生理のトラブルについては、さまざまな例が紹介されました。

吉形先生:トラブルの一例としては、周期の乱れや、痛み止めを飲んでも痛みが止まらない、量が多すぎる......といったことが挙げられます。
生理用のナプキンには夜用の大きいものがあるのですが、月経異常が起きて経血の量が多くなると、夜用のナプキンでも1~2時間でいっぱいになってしまうことがあります。
ちなみに通常は、生理のときはナプキンを1日に5~6回変えるんですよ。"1日1個でいい"と思っている男性の方もいるのですが、1個では足りませんね。


続けて、吉形先生が「女性は生理前になるとイライラする、と聞いたことはありますか?」と問いかけると、生徒さんたちのほとんどが頷きます。

吉形先生:それは、ホルモンのせいです。その人のせいではなくて、ホルモンのせいで別人のようになってしまうことがあるのです。
個人差はありますが、すごくイライラしたり落ち込んだり、気持ち悪くなったり......。女性ホルモンはメンタル面にも作用します。
女性のからだは、生理のサイクルによって毎月、ホルモンバランスのアップダウンがあるので、このようにメンタル面にも不調が出る時期がある、というのはぜひ意識していただきたいです。


授業後に生徒さんにお話を伺ったところ、「生理を迎えた妹に対して、"なんでそんなにイライラしているの?"と、ぶつかってしまうことがあった。今日学んだことを活かして、これから妹のことを理解していきたい」と話してくださった方も。

さらに、多くの女性が生涯で何度も付き合うこととなる一方で、男性は経験することのない"生理痛"に関しても先生から説明がありました。
吉形先生は"生理痛は、陣痛のミニチュアバージョン"とたとえます。「経血を出すために、子宮の筋肉がギューッと収縮する。いかにも痛そうですよね」という解説は、みなさん真剣な面持ちで耳を傾けていました。


ピルの役割は避妊だけではない

続いては、低用量ピルについてのお話です。

"低用量ピル"と聞くと、日本ではまだ、避妊のための薬というイメージが強いのではないでしょうか。
吉形先生は、生理に伴う症状・疾患の緩和や生理不順の改善、また旅行などの予定に向けた生理日の調整など、避妊以外にもたくさんある、ピルの役割を紹介しました。

吉形先生:ピルの大きな目的は、排卵をお休みさせてあげることです。
ピルは確かに避妊のために使われる薬でもあるのですが、"不妊にする"というわけではないんです。服用をやめたら、排卵が復活するので、赤ちゃんができるようになります。
むしろ、卵巣の疾患になる可能性を抑えられるので、妊娠しやすい状態を作ってくれることが多いです。

低用量ピル服用中は排卵が一時的に止まるので、排卵に伴って女性ホルモンが引き起こすさまざまなトラブルを緩和できるということです。
つまり低用量ピルの存在は、女性の健康課題の一部を改善に導き、女性特有の生きづらさを解決する一助となってくれるといえます。

大人の女性でも「ピルは避妊のためのもの」という印象を抱いている方もおそらく多いなか、男子高校生がこの事実を知ったことには、大きな価値があるのではないでしょうか。

異性を理解することが、より良い未来への第一歩になる

正則学園高等学校にて実施された特別授業の様子・前編をお届けしました。

今回の授業は、女性自身でも詳しくは知らない方の多い、女性のからだについて、これからの未来をつくっていく男子高校生たちが一から学ぶ場となりました。
授業を通じて知見を深めた彼らが、これから社会に羽ばたくことで、きっと今よりも素敵な世の中になっていくことでしょう。

後編では、授業で扱われた更年期症状やフェムテックに関する内容、また生徒さんと吉形先生の質疑応答の様子などをお伝えします。

後日の公開をお楽しみにお待ちください。

(取材・文:城下透子)

フェムテック・フェムケアアイテムのおすすめを知りたい方は、こちらの記事もご覧ください。
「更年期の方におすすめのフェムテック・フェムケアアイテム7選」

SUPERVISERこの記事を監修した人

吉形先生

PROFILE

吉形 玲美 (よしかたれみ) 医師

医学博士/日本産科婦人科学会 産婦人科専門医
専門分野:婦人科

産婦人科臨床医として医療の最前線に立ち、婦人科腫瘍手術等を手掛ける傍ら、女性医療・更年期医療の様々な臨床研究にも数多く携わる。女性予防医療を広めたいという思いから、2010年より浜松町ハマサイトクリニックに院長として着任。現在は同院婦人科専門医として診療のほか、多施設で予防医療研究に従事。更年期、妊活、生理不順など、ゆらぎやすい女性の身体のホルモンマネージメントを得意とする。
2022年7月「40代から始めよう!閉経マネジメント」(講談社刊)を上梓。
2023年9月より「日本更年期と加齢のヘルスケア学会」副理事長に就任。

instagram 吉形医師による女性ホルモンお悩み相談室

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※掲載している情報は、記事公開時点のものです。
レミ先生の診療日記
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