男子校で性教育「もっと話そう!Hello Femtech」正則学園高等学校での公開授業をレポート!【後編(全2回)】

株式会社宝島社主催の「もっと話そう!Hello Femtech」プロジェクトの一環として、東京都の男子校・正則学園高等学校で実施された、吉形玲美先生による特別授業。
後半では、多くの生徒さんたちにとって母親世代にあたる女性の更年期の悩みを中心に、さまざまなお話がありました。
前編に引き続き、授業の様子をお届けします。

株式会社宝島社主催の「もっと話そう!Hello Femtech」プロジェクトの一環として、東京都の男子校・正則学園高等学校で実施された、吉形玲美先生による特別授業。
後半では、多くの生徒さんたちにとって母親世代にあたる女性の更年期の悩みを中心に、さまざまなお話がありました。
前編に引き続き、授業の様子をお届けします。

前編の記事は、こちらからご覧ください。
男子校で性教育「もっと話そう!Hello Femtech」正則学園高等学校での公開授業をレポート!【前編(全2回)】

更年期のことを知り、母親世代へ寄り添う気持ちを


女性の健康課題は、生理だけにとどまりません。閉経前後の10年間ほどは更年期と呼ばれ、個人差はあるものの更年期症状が生じることがあります。
授業では、吉形先生より、加齢によって卵巣に起きる変化や、それに伴う閉経・更年期症状の仕組みについて解説がありました。

※以降、本記事では授業の内容に準拠し、月経を"生理"と表記いたします。


卵子は加齢に伴い、どんどん減っていく

まずは、卵巣の機能についてのお話からです。ここでも、生徒さんたちがご自身と比較して捉えられるよう、男女の仕組みの違いにフォーカスした説明がありました。


吉形先生:男性の場合、新しい精子がどんどん作られるようになっていますが、女性の持っている卵子はそうではありません。卵子の数は胎児のときが一番多くて、その後は何もしなくても、経年的に卵子が減っていきます
最近では "AMH検査(卵巣予備能検査)"というものを受ければ、残っている卵子のおおよその量を調べられるようになりました。


AMH検査は、2023年11月に東京都の助成事業対象となった、比較的新しい検査です。女性でも知らない方が多いと思います。
これから妊娠を考えている女性や、子どもが欲しい男性にとっては、AMH検査も知っておきたい知識のひとつですね。


更年期症状は、孤独なつらさでもある

排卵する卵子がなくなると生理が終わる、つまり"閉経"となります。そこで引き起こされるのが、前編の記事でも言及のあった更年期症状です。
多くの生徒さんにとっては、お母さんの年代が、今まさに更年期症状に悩まされる時期でしょう。


吉形先生: 閉経を迎えると、女性ホルモンが急激に減ります。それによって、脳がパニックを起こし、自律神経が乱れます。
自律神経は、身体の疲れや不眠、イライラなど、心身にとても幅広い影響を与えます。これが"更年期症状"ですね。


ここで、吉形先生が生徒さんたちに「"ホットフラッシュ"という症状を聞いたことはありますか?」と問いかけます。生理前の症状について尋ねたときと異なり、うなずく生徒さんはいませんでした。
生理は周囲にいる多くの女性が経験し、保健体育の授業でも学ぶ機会がある一方で、更年期症状については身近に感じられる機会があまりないのかもしれません。

吉形先生:更年期症状で、多くの女性が特につらそうにされているのが、ホットフラッシュです。周りのみんなは普通に過ごしているのに、自分だけすごく暑く感じたり、滝のように汗をかいたり......といった症状が出ます。
個人差があるので、すべての女性が同じ症状を体験するわけではありませんが、つらい人もいるということを、ぜひ知っておいてください


"周りのみんなは普通なのに、自分だけ"という孤独感は、当事者にとってメンタル面でも大きな負担があります。こういった症状があることを知っておけば、普段の日常でつらそうにしている女性を見かけたときに「更年期症状でつらいのかもしれない」と、寄り添う気持ちをもてるようになるかもしれません
ご家族・親族や将来のパートナーなど、周囲にいる更年期の女性を支えるきっかけにもなるでしょう。

また、吉形先生は更年期について「あたかも"悪い病気"かのように言われていることが多いけれど、"思春期"と同じように、特定の時期をさす言葉にすぎない」とも話しました。

言葉の使い方、捉え方ひとつでも誤解があれば、そこからアンコンシャスバイアス(無意識の偏見・思い込み)につながることも容易に起こりえます。
症状の内容や仕組みといった知識はもちろんのこと、言葉の正しい意味についてもきちんと知っておくことが、とても大切ということです。


更年期のつらさは、保険適用で治療できる

前編の記事でご紹介した、雑誌『大人のおしゃれ手帖』の調査結果では、更年期の不調を我慢している女性が4割近くもいることがわかりました。
しかし近年は、医師の診断で治療が必要と判断されれば更年期障害として保険適用となり、更年期症状の根本治療ともいえる、"HRT(ホルモン補充療法)"という治療を受けることができます。


吉形先生:閉経によって減少した、エストロゲンという女性ホルモンを補うのが、HRTです。先ほど解説した低用量ピルは、ホルモンの分泌を抑える薬なのに対し、HRTではホルモンを補うので、真逆の治療ですね。
"ホルモンを投与する"と聞くと注射をイメージするかもしれませんが、今はもう注射は使っていません。飲み薬の服用や、塗り薬・貼り薬による皮膚からの吸収で女性ホルモンを補うことができます。
こういった治療を気軽に受けられるということはあまり知られていないので、みなさんもぜひ周りの方へ伝えてあげてくださいね。

"生きやすい社会"につながる鍵となるフェムテック

授業の最後のテーマは、本企画「もっと話そう!Hello Femtech」のタイトルにも使われている、フェムテックについてのお話でした。

近年、世界的に注目を浴びている"フェムテック"は、女性の健康課題を科学技術の力でケアする製品・サービスのことをいいます。生理中の期間を快適に過ごせる吸水ショーツや、生理周期を管理するアプリなど、多様な種類があります。
海外では多くの企業が積極的に参入している一方で、日本ではまだまだ発展途上なのが現状です。
今後、日本国内でもフェムテックが浸透するには、これから世の中を作っていく世代がフェムテックについて知っておくことが、非常に大切です。

吉形先生:なぜ近年、フェムテックが注目を浴びるようになったのか? というと、実は授業で最初にお話しした内容とつながっています。「男らしく」「女らしく」といった思い込みは近代にかけ続いてきたことで、特に女性が蔑まれてきた歴史がありました。
そういった背景のなかで、100年ほど前から徐々に女性参政権獲得運動や女性解放運動が起きて、世の中が少しずつ変わってきた結果としてフェムテックというものが生まれたのです


今回の授業を聞いた生徒さんたちが将来就職した際、仕事でフェムテックに携わる可能性があることも考えられます。
今や、女性の社会進出やダイバーシティという考えが当たり前になりつつあるのと同じように、その頃にはフェムテックがもっと身近な存在になっているかもしれません。


女性の健康課題を改善する手段


授業の締めくくりとして、吉形先生から生徒さんたちにメッセージが伝えられました。

吉形先生:今回紹介した女性の健康課題は、男性が人生で経験しないものばかりです。
これらを助けてくれるのが、低用量ピルやHRT、フェムテックですね。そういったものがある、ということを男性も知っておくことで、周りにいる女性を支える一助となるかもしれません。
今回の授業で得た知識を、ご家庭や社会で活かしていただけると嬉しいです。


授業後にお話ししてくださった生徒さんたちの多くは、「女性とかかわることがほとんどないので、初めて知ることばかりだった」「将来、パートナーができたら今日知ったことを活かしたい」と言っていました。
吉形先生の想いは、授業を通じてきっと生徒さんたちに届いたことでしょう。

ミニコラム:吉形先生と生徒さんたちの質疑応答

最後に、生徒さんから吉形先生に、気になることを質問するコーナーがありました。
その様子をお届けします。

正則学園生徒:女性が、生理のときに何かしてほしいことはありますか? あからさまに何かしようとすると、かえって相手に気を遣わせてしまうかもしれないので、さりげなくサポートできることがあれば教えていただきたいです。

吉形先生:その方の性格や好みにもよるので、一概には言えないですが、「何か手伝えることはない?」「大丈夫?」と聞くのはいいかもしれないですね。なんともないような顔で過ごしているけれど、実はつらい......という女性も多いので。
人によって「こうしてほしい」「これはしてほしくない」というのが違うため、どうしてほしいのか相手の方に直接聞くことが理想です。
あとはイベントに誘うのを控えて家で過ごすなどして、体をあまり動かさないようにしてあげるのもいいと思います。
まずは「授業でこんなことを勉強したんだけど......」と切り出して、話をしてみるのはどうでしょうか。「気にかけてくれている」ということ自体が嬉しい女性は、きっと多いはずですよ。

これからの世代が、より良い未来につなげてくれる

前編に引き続き、正則学園高等学校にて実施された特別授業の様子・後編をお届けしました。

女性自身が「多少の不調は、我慢すれば大丈夫」と思ってしまいがちな現状に対して、男子高校生たちが問題意識を抱くきっかけとなった今回。
授業後のお話や質疑応答の内容からも、既に女性を気遣う優しい気持ちにあふれた生徒さんばかりだったことが伺えます。

授業を受けた生徒さんたちは、これから全校生徒を対象に今回の内容と関連したアンケートを実施し、その調査結果を11月の文化祭で発表します。
文化祭での発表を通じて、より多くの方に今回の内容が届くかもしれません。
女性の健康課題というテーマに対して、世の中の一人ひとりが興味を抱いて正しい知識を身につけることで、きっと良い世の中になっていくはずです。

(取材・文:城下透子)

フェムテック・フェムケアアイテムのおすすめを知りたい方は、こちらの記事もご覧ください。
「更年期の方におすすめのフェムテック・フェムケアアイテム7選」



SUPERVISERこの記事を監修した人

吉形先生

PROFILE

吉形 玲美 (よしかたれみ) 医師

医学博士/日本産科婦人科学会 産婦人科専門医
専門分野:婦人科

産婦人科臨床医として医療の最前線に立ち、婦人科腫瘍手術等を手掛ける傍ら、女性医療・更年期医療の様々な臨床研究にも数多く携わる。女性予防医療を広めたいという思いから、2010年より浜松町ハマサイトクリニックに院長として着任。現在は同院婦人科専門医として診療のほか、多施設で予防医療研究に従事。更年期、妊活、生理不順など、ゆらぎやすい女性の身体のホルモンマネージメントを得意とする。
2022年7月「40代から始めよう!閉経マネジメント」(講談社刊)を上梓。
2023年9月より「日本更年期と加齢のヘルスケア学会」副理事長に就任。

instagram 吉形医師による女性ホルモンお悩み相談室

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※掲載している情報は、記事公開時点のものです。
レミ先生の診療日記
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